あんなことが起きた金曜日。
夏希は、土日はふとしたことから
あれやこれやを思い出しては、
今まで体験したことのないくらいの胸の鼓動と、
これからどうしたらいい?!という混乱の中にいた。
……月曜日になった今も混乱は解けない。
なんであんなことになったのか。
今までこの手の失敗をしたことがなかった。
でも、今回はなぜか流れに歯向かうことなく、
すんなりとそんなことになってしまった。
……ライバルだったはずの男と。
(あー会社行きたくない……)
いつもなら軽い足取りで
カフェ・ラテなんか片手に、
今日も頑張るぞーっと思いつつ、
歩いていた。
今日は一歩一歩がものすごく重い。
エレベーターに乗り、
営業部のフロアに到着する。
顔をパチンと叩いて、
いつもの夏希らしく大きな声で、
「おはよーございますっ!」
と挨拶をした。
由香が、
「おはようございます。先輩」
とにっこりと笑顔で返してくれる。
そのことに少しホッとして、
目線は佐原の席を見てしまう。
佐原の座席にはまだ本人は現れてなかった。
すると、
「おはよー!」
という佐原の元気な声が。
真後ろから。
女子たちが色めき立つのが分かる。
ビクッとし硬直した夏希は、
後ろを振り向き挨拶を返せない。
「伊藤、この書類目ぇ通しといて」
さらっと、会議の資料っぽいものを渡される。
営業部全体で取り組む会議などもあるので、
それについてはおかしいことではない。
バサバサと机の上に置かれ、
いつもなら、もっと丁寧に扱いなさいよ!
とか文句を言う夏希だが、
「……ハイ」
と、やたらおとなしい。
佐原もそれに関しては何も気にせず、
そのまま着席する。
由香が不思議そうに、
「……ん?何かありました?」
とこっそりと問いかける。
夏希は、
「いやいや!ないないないない!」
とやたらオーバーリアクションである。
朝の朝礼がしばらくして始まり、
部長の報告など聞きつつ、
佐原から貰った資料に目を通す。
パサリとメモが落ちてきた。
『朝礼の後、会議室①集合』
夏希は、叫びたいのをこらえて、
……ゴクリと息を呑む。
逃げ帰ったあの後も、
佐原から何かメッセージが来ていた。
でも、混乱の中一度も見てなかった。
(こんなに部長の無駄話長くしてくれ……
って思うの初かも……泣)
