佐原とともに来ていた男性は
二階堂樹(にかいどういつき)と言い、
建築会社の不動産部門で働いていた。
同級生らしく、彩香が喜んでいる。
夏希たちが働く商社は
機械工具や工業機器、住建事業など幅広い。
最近はちょっとしたサーキュレーターが
安くて涼しく使いやすいと
評判になった。
夏希はむすっとしたままいると、
彩香が気を使うようにかわいい声で二人に話しかけた。
「お二人は大学からのお友達なんですかぁ?」
「えーっと、ちゃうねん」
「涼司は、不動産会社の集まるセミナーに潜入しててさ。
俺もしぶしぶ参加してたら、やたら元気のいいのがいるから、
面白いなと思って声かけたんだ」
「ええ~、そうなんですね」
住建事業は夏希たちの部署で手厚く扱っている。
仕事の合間にそういったセミナーに参加して、
勉強している……。
夏希の中で、佐原に対する劣等感が増してくる。
「いっちゃんもつまらなそうな顔しとったけど、
割と真面目にメモ取っておったんじゃないか。
それもおもしろて」
「二時間も拘束されるから、メモくらいはちゃんとしないと……って思って。別に大したことはしてないよ」
二人で当時のことを思い出したのか、
にやにやして話始めた。
「社会人になってから社外で友達出来るなんて、
すてきぃ~。
ね!モンチ!」
彩香がしなだれかかるように
夏希の肩にことんと頭をのせる。
すると、佐原が急に
「ところでさ、二人は大学時代からの仲なん?」
と聞いてきた。
「そうですぅ~。二人とも同じ部活でぇ~」
「え!じゃあ、野球部?彩香ちゃんも?」
佐原は夏希の大学時代の熱い闘魂を知っていたので、
今の彩香と比べて少し驚く。
「それはもう強肩で、
彩香はめちゃくちゃ強いピッチャーだったんだから!」
夏希は得意げに話す。
彩香は
「やだ~言わないでよっ。モンチ!」
と横でくねくねする。
佐原はにやっとして
「なあ、伊藤。
そのモンチってあだ名なん?
モンチッチてことなん?」
と彩香に尋ねる。
夏希は「ひっ!」と小さく鳴き、
彩香はさほど気にした様子もなく、
「そうなんですぅ。当時はベリーショートで
お猿さんみたいに可愛かったんですよ~」
と言う。
その途端ブハッと佐原は吹き出し、
「マジかー!! あははっ!」
と、爆笑し始めた。
夏希は頭を掻きむしり、
「も~やだ~!
だから佐原なんかとプライベートで
飲みたくなんかなかったのよ!
絶対、会社では言わないでよっ!!」
ちょっと涙目で怒る夏希に、
まだヒーヒーと、
笑いが止まらない佐原。
「はは、だいじょぶ。
これは秘密にしたるわ。
くっ、かわええ……」
夏希は真っ赤になって怒り、
「も~彩香、言わないでって言ったのに!!」
最後はやだ~と言いながら、
机に伏せてしまった
「いいじゃん、モンチ可愛い!」
と、にっこりの二階堂。
「モンチか~、におうとるわ~クク……」
佐原はまだ腹を抱えている。
ムクッと起き上がった夏希は、
「これで終わりなんて許さない!
佐原、勝負よ!!」
とビール瓶を右手持ち、
佐原の顔の前に突き出した。
「よっしゃ、やったるで!!
大阪で鍛えた飲みの力見せたるわ!!」
「後で、泣き言言うんじゃないわよ!
こっちだって野球で鍛えた力見せてやるわ!!」
佐原と夏希の酒飲み対決が始まった。
「「注文お願いします!!」」
二人は大声で定員を呼ぶ。
隣では彩香が、
「えーモンチ、あんたやめときなよ~」
となだめるが、
二人は熱く見つめあい、ピクリともしない。
二階堂が小声で、
「うーん、面白そうだから、
彩香ちゃん二人で飲みなおそっか」
と声をかける。
店員が来て、
佐原と夏希は勢いよくビールを注文し始めた。
彩香は、
「そうですね。成り行きを見守っちゃおうかなっ」
としなを作り、
そっと隣の空いている席に二階堂と離れた。
そして二人は浴びるように酒を飲んだ。
何が起こるかも考えずに……。
