「さっ……佐原!」

顔にかかったビールを、
スッとポケットから出したハンカチで拭き、

「人にビールかけて、
よぉ悪口言ってくれたなぁ」




会社での爽やかな笑顔ではなく、
口の端だけがにやりと笑う。

悪魔的な笑顔の恐ろしさに
夏希はヒッと縮み上がる。

「調子が良いだけムダイケメン……やって?
ふーん、イトウはそう思ってたんー
ショックやな〜

……あ、でも、イケメンだと思ってくれてたんはええか」


「ご、ごめんなさい! 」


恐縮して小さくなる夏希だが、
横から彩香がひょこっと顔を出し

「えー、お友だちぃー? 本当にイケメンやん
モンチ、紹介してよ〜」

と、言い始めた。


夏希の袖を引っ張り、駄々をこねる。
その力は割と強い。
強肩を思い出させる。


「お、涼司知り合い? 
え、かわいいじゃん。一緒に飲もうよ! 」

と、佐原も友人と飲みに来ていた様子で
後ろからスーツ姿の、
優しそうだけどちょっとチャラい
眼鏡の男性が現れた。


「これからビール浴びるほど飲むんだから、
ちょこっとかかったくらい、涼司許してやれよー」
「やだーおもしろぉい〜! 」

何が面白いのか分からんが、
彩香は眼鏡の男性も
気に入った様子でウキウキしている。

そうして友人2人に引っ張られ、
四人で飲むことになったのだ。







………な、なんで、コイツ(佐原)と飲まなきゃアカンねーん!!


夏希は何度叫びそうになったことか。


しかし、ビールをかけた上に悪口まで聞かれて
しまった引け目があり、
グイグイ引っ張る彩香に連行され、
夏希はカウンターから、
四人席に泣く泣く移動した。