佐原からの電話を切ると、夏希は決意を固めたようにすくっと立ち上がった。








次の日、佐原は自宅にいた。




ピンポーン



昼頃チャイムが鳴った。

シーンと静まった家に久しぶりに来客だ。
母親は朝ご飯の後、部屋で閉じこもり、
姉も朝から出かけていた。

「……なんや……?」

佐原はフラフラと玄関のモニターを見た。

「!!!」





そこに映っていたのは、夏希だった。
めずらしくシックな装いでスカートも履いていた。


ダダダと佐原は走り、玄関に向かった。
もちろん佐原の実家は大豪邸だったので、玄関まで遠い。

玄関の横にあるボタンを押すと、
ウィーンと音を立てて門が開いた。

夏希は緊張した顔で門を見上げ立っていた。





佐原は転げるように走って門の前にいる夏希を見つけ、
笑顔で飛びついた。


「伊藤!!!!」

「ぎゃっ!!!」

夏希はブサイクな叫び声をあげて、抱き着かれた。


「……よぉ分かったな」
「樹さんが、知ってた……」
「あぁ、いっちゃんには話したことあったな」
「……私には言わなかったクセに……」
「それは、すまんて」


桜井商事社長の家として、何かとこのあたりでは有名な豪邸だった。
大まかな土地を樹に聞いたまま、本当に見つけられるかと心配したが、最寄りの駅に降り立ち、道行く人に聞くと、すぐに噂好きなおばちゃんが教えてくれた。


夏希はちょっと離れると、正面から佐原の顔を見た。
そして、そっと佐原の頬に右手をあてた。

「……まだ1週間なのに、ちょっと痩せた?」

「……色々あってん」
と、夏希の手を上から左手で包みこんだ。

「……急に押しかけてごめん。なんもできないけど、ほっとけなかった」
夏希が少し照れたように下を向いて言った。

「俺もただここにおるだけで、大したことできてへん。伊藤が来てくれて嬉しいわ……」

夏希は佐原の顔を見ようと顔をあげた。
見つめると、少し痩せた佐原がくしゃっと泣いたように笑った。






「………あの………」

突然、震える小さな声が聞こえた。





「!!!!」
夏希が慌てて振り返ると、玄関先に美しい女性がヨロヨロしながら出てきていた。




「お、オカン!!」




佐原の母だった。