犬猿の仲でも溺愛が止まりません!




「えー、佐原くん本当の王子様だったのー!?」
彩香の明るい声が居酒屋に響く。
夏希は例によって机に突っ伏して、いじけていた。


「ずっと嘘ついてたんだよ!」
「うーん、なんかその話だとそんなに嫌な感じしないんだけどなぁ。樹くんも、休みの日もめちゃくちゃ勉強してて、佐原は凄い奴だって褒めてたよぉ」


「私もそう思ってたよ……でも、なんか嘘つかれてたことが嫌なの……」
「モンチさ、最初から社長令息って知ってたら、おんなじ態度取れた?同期としてさ」
「……うぐ……、確かにそれは難しいと思うけど……」


「佐原くんが、父親に認めてもらえるように働いてたってことは、別に次の社長だからとか、確かな何かがあって働いてたわけじゃないよねぇ」
「……うん」
「確かに隠してたのは嫌かもしれないけど、佐原くんには佐原くんの悩みがあって、タイミングがあったんじゃないかなぁ。だけど、お父様のことがあってバレちゃって、本人もびっくりしてるんじゃないかなぁ」
「……分かるよ。分かるんだけど……」


「モンチがきっとそういう風になっちゃうと思って、佐原くん待ってたんじゃないかなぁ〜イロイロと!!」


頭をガシガシ掻いて、夏希は彩香の正論に耐える。


「それより、佐原くん結構大変なんじゃないの?」
「……?」
「ニュースとか見てないのぉ〜桜井商事の社長さん、重病みたいだよ……。株とか上下してるし」
「そうなの!?」
「夏希は本当ニュースとか見ないよねぇ。……ゴルフ中に倒れちゃったから、大騒動だったみたい。なんか新聞にも大げさに書かれてるよぉ」
「彩香って、何気に有能……」
「お客様、色々な方いるから、毎日新聞やニュースちゃんと見てるんだぁ」
「化粧品だけ売ってるわけじゃないのね……」
「人気商売でもあるから、話術は大事よぉ〜」
キュルンと首を傾げてかわいこぶるが、なかなか切れる女だ。


「佐原くんも突然のことで参ってるんじゃない?なのに、ガチャギリしてさぁ~」
「……ぐ」
「こんなところで呑んでる場合〜?」

と、言って、怖い笑顔の彩香に早く帰らされてしまった。










プルルルルル……



夏希から佐原に電話するのは初めてだ。



『伊藤!?』
「……うん」
『………良かったわ〜。……もう出てくれへんかと思った……』
佐原の声がホッとしている。

「彩香に……怒られちゃった」
『なんで?』
「こんなところで呑んでる場合じゃないって」
『アハハ!彩香ちゃんやるな』
「なんか元気そうだね」
ちょっとイラッとして言うと、
『……うーん、なかなか大変やで』
と、言葉を濁す。

「……お父さん、大丈夫なの?」

夏希は声に出して初めて思った。お父さんが大変だから、大阪に帰ったのに……。こんな気遣いもできず、やだやだと駄々をこね……、なんてガキなんだ私……と。