頭を撫でられると幸せな気分になった。
今までは、はぁ!?と手を振り払っていた。
「ばっかじゃない」
と、ふいと顔を横にそむける。
「これ以上は怒られるわ」
と、佐原の手が離れた。
なんとなく寂しさを感じつつ、夏希は話題を変えた。
「佐原って、大阪育ちってイメージだったけど、大学から東京だと結構東京歴長いんだね」
「そうやで〜意外とトウキョーボーイなんよ」
「ダッサ!トウキョーボーイとか、センスが大阪!」
「は?大阪なめんなよ。オモロイ街なんやからな」
二人でちょっと喧嘩しつつも、楽しい時間は過ぎていった。
お店から出て、二人で駅まで歩いた。
喧騒から離れて、大通りから少し離れた道を歩く。
「……佐原」
「ん?」
「……今日はありがと……」
なんだか恥ずかしくて夏希は佐原の顔を見られない。
「……伊藤」
「楽しかったから!お礼ぐらいはちゃんと言わないと!」
ちょっと怒りながら佐原の顔を見ると、
真っ赤だった。
「うわーーー」
佐原はモダモダしながらしゃがみ込んでしまった。
「な、なんなの!?」
「あかん……可愛すぎるわ」
佐原はトキメキが止まらないらしく、胸を押さえて下を向いてしまった。
「ばっかじゃない……」
今日2回目のばっかじゃないだ。
佐原はしゃがみ込んだまま、夏希を見上げて、
「はよ、俺のモンになってぇな」
と情けなく言った。
まるで捨てられた犬みたいな顔に
「ぷっ……アハハハハハハ!」
と、笑ってしまった。
佐原はガバっと立ち上がり、
スタスタと歩き始めた。
「はっず」
と、照れているようだ。
夏希は佐原の素直さに、笑いつつ、嬉しさを感じていた。
恋愛だって、沢山してきたはずの佐原が、待ってくれている。
夏希の気持ちに寄り添う優しさが、夏希の心を溶かしていた。
「……あのさ」
と、夏希が話しかけた。
「……ん?」
プルルル、プルルル
佐原の携帯が鳴った。
「……ごめん!オカンからや。こんな時間に何やろ。ごめん出るわ」
佐原は慌てて電話に出た。
「オカン?何やよ〜今ええとこなんに。
………え。………ほんまか………」
佐原の顔色が変わった。
うん、うん。と返事する声だけが響く。
夏希も様子がおかしいと感じて、佐原を真剣に見つめていた。
「……分かった。大阪帰るわ。お姉は?……あーそうやね。慌てんと、落ち着かんとあかんで」
と、電話を切った。
「……イトウ……どーしよ」
佐原は泣きそうな顔をして、夏希の肩におでこを押しつけてきた。
「どうしたの?」
「親父が……倒れたんやって」
「……え!!」
「さっき救急車で運ばれて、オカンが今手術室の前で待ってるらしい。危ないかもしれん……どうしてや……」
夏希は時計を見た。まだ20時くらい。
「最終何時!?」
「……へ?」
「新幹線!大阪行きの!!」
凄い剣幕で夏希は叫んだ。
「9時半くらい……」
「佐原、ここから家近いよね?」
「あぁ」
「すぐ帰って、準備して行きなさい!!」
「……そ、そうやな」
「会社用のパソコン持ち帰ってるよね!?」
「お、おう。よう知っとるな」
パソコンはしっかりセキュリティがあるから、持ち帰ることも可能だ。最近は在宅勤務も増えているから、在宅になる子持ちサラリーマンや、佐原のような仕事の鬼は会社用のパソコンを持ち帰る。もちろん夏希も毎日持ち帰っている。
「会社はだいたい本社大阪なんだから、在宅だってなんだってどうにかなる!佐原!早く帰って、家族を安心させてあげて!!」
佐原は夏希の剣幕に唖然としつつも、
だんだんと頭が働いてきたようでキリッとした。
「……ありがと!落ち着いたわ……。俺、すぐ大阪戻るわ!」
と、夏希の目をまっすぐ見た。
夏希は佐原は大丈夫だと感じた。
「……何か手伝えることあったら連絡して……。佐原が帰ってくるまで、私も仕事頑張ってるから!」
「……分かった」
佐原は落ち着いた様子で駅に向かい、大阪に帰って行った。
