「きいいぃぃぃ! 悔しい!!!」


ガンッと大きな音を立ててビールを置く。
会社近くのお気に入りの居酒屋で夏希は管を巻いていた。


「モンチ〜! 危ないよぉ」

橋本彩香(25)がお花を散らせて叫び、
夏希のこぼしたビールをおしぼりで拭く。

「私だって、
今回は大口の契約結構たくさん取れたのに!
全然アイツの足元にも及ばないなんて……」

「モンチ〜モンチは頑張ってるよぉ」

「ってか、モンチモンチって、
あやかっ!
大学時代のあだ名で呼ばないでよっ!」

大学ではベリーショートで前髪も短く、
友人たちからはモンチッチ、略してモンチと
呼ばれ可愛がられていた。

でも、25歳になってまでモンチだと
恥ずかしい……。

「ええ〜でも、モンチはモンチだよぉ?」

コトリと首を傾げる彩香。


昔は、東西大の虎と呼ばれた
強肩の女であると誰が信じられるだろうか……。
彼女のストレートは100キロを超え、
対戦校からは恐れられていた。

大学を卒業して3年、
同じ野球部で鍛えた仲の良さは変わらないものの、
彩香は社会人デビューに成功し、
化粧品会社に勤める可愛い女の子に変身していた。


「彩香〜
なんであんたはゴリラじゃなくなっちゃったのよう〜」

大学時代あんなにムッキムキだったのに、
よく筋肉を削ぎ落とし、フリフリが似合う美女に
変身したものよ……。

「うーん、彩香はホントは可愛いものが大好きだったんだよ。
でも、モンチとする野球も大好きだったから
鍛え上げたんだけど、
今は王子様と出会って素敵な結婚するのが目標なのっ! 」

キュルンと首を傾げる動作も可愛らしい。
よくここまで研究したよ。

大学時代のことを思い出しながら、
ちょっと夏希は落ち着いてきた。


「はぁ〜、何やっても女だからってまず下に見られて、
そこから盛り返して契約取るから、
スタートから負けてる気がする……」

「うーん、そうなのかなぁ。
一部の人だけじゃないのぉ?
最近うちの会社も男尊女卑っていうの?
パワハラとかセクハラ厳しいし〜」

ガクッと首を落とし、彩香の話を聞くが、
夏希はムクッと起き上がり、

「そんなこと無い!
うちの会社は本社大阪だからマジ古いのよ!
取引先はガテン系多いし、女になにできんのー?
みたいな斜めから見てくる客の多いこと!!! 
佐原は男だから得してる!!」

色々思い出し、怒りとともに絶対負けないと燃えてきた。

「いつもサハラくんのこと言ってるケド、実は意識しちゃってるとか?!」
「くぁ〜っ!あり得ない!男としてみたこと無いっ!」
「なぁんだつまんな〜い」

雪辱を果たすべく、

「私は野球を通して培ったど根性で、
次こそ憎っくき、
調子が良いだけムダイケメンの佐原を倒して、
営業で1位になってやる〜!!!」


大きな声で夏希は立ち上がり、
持っていたビールを振り上げ、誓った。



ガチャン!!!

ビチャ!!!



めちゃくちゃ当たった……

カウンター席の後ろ歩いてるサラリーマンに……







「おーいー」



「す、すみません!!!」

パッと顔を上げて相手の顔を見ると




佐原だった……。