「あー!後ちょっとなのに!」
夏希がどうしてもサーブが入らず苛《いら》ついていると、
「んー角度かなぁ。伊藤、ちょっと触るで」
と、佐原がそっと夏希の右手を掴んだ。
「きゃ!」
と、夏希は驚いてしまった。
「わ!……すまん、急に」
佐原は焦ったように手を離した。
「……ご、ごめん。教えてくれてるのに」
「ちょっと角度見るだけやから、そう嫌がらんといて」
「……わ、分かった」
と、佐原が後ろから夏希の手に再び触れた。
(……後ろから抱きしめられてるみたいなんだけど〜〜)
夏希は内心ドキドキが止まらなかったが、佐原は真剣に、
「角度はこうや」
と、ラケットの向きを調整してくれていた。
「さぁ、やってみ!」
佐原が離れ、夏希はドギマギしながらもう一度サーブを打ってみる。
頭はちょっとついていっていなかったのだが……
スパンっ!
……見事決まった。
「え、えええーーー!!!」
「おぉ!やったやん!伊藤!!」
と、佐原が夏希の手にハイタッチする。
「やった~!!気持ちいい!!」
夏希が喜ぶと、
「おめでと~~!!」
と、佐原がとても嬉しそうに笑った。
(……佐原……)
その笑顔に夏希はキュンとして、自分の気持ちにやっと気づいてしまった。
(だめだ……気づいちゃった。佐原といると嬉しい……)
一緒にいると楽しい……。
ドキドキする……。
もっと一緒にいたい……。
彩香が言っていたことが、やっと分かった。
「伊藤、ボーッとしてへんでサーブの感覚叩き込むで!」
と、佐原は夏希の変化に気づかず再び練習を開始した。
少し、サーブの練習をした後、
「よっし、じゃあ、試合しよ!ボコボコにしたるわ」
と佐原は腕まくりしてやる気満々だった。
「はぁ?負けないからねっ!」
と夏希も負けずに言う。
もちろん佐原が圧倒的に強かったが、
なかなか夏希も初めてにしては上手く、
とても楽しい試合だった。
