トボトボと座席に戻ると、
「夏希さん、残念でしたね」
と、1年後輩の山吹由香(24歳)が
声をかけてきた。
ロングヘアーで清楚系の美人さんだ。
営業事務を担当していて、
いつもペアで働いているので、
事務作業が苦手な夏希にとっては
かなり頼りになる後輩である。
「はー。まぁ、力不足ってことかな。
もっと頑張らなきゃ!」
とヘラっと笑い明るく返す。
すると、
「そうやで〜。もっと馬車馬のよに働き〜」
と頭の上から一番聞きたくない声。
キッと睨むと、
にやついた佐原の姿が。
「なにかてまぁ、笹野工業の契約取ってきたんは
凄いて思ったけどな」
と、褒めることも忘れない。
ムカつきつつも、
自分でも笹野工業と契約できたのは
嬉しいことだった。
笹野工業は、古い歴史を持っている会社。
もちろん営業しに行っても
なかなか認めてはもらえず、
何度も門前払いされた。
でも、社長さんに何度も新しい提案をして、
古き良きを生かすためと説得して、
工業用電子機材を導入してもらえた。
今まで手作業でしていた設定を、
ワンタッチで変更できるようになって、
今のところとても楽になったようだ。
設定も細かくて機材部と何度も打ち合わせして、
本当に大変だったけど、
めちゃくちゃやりがいがある仕事だった。
その後、
社長さんとはお互いあるプロ野球チームのファン
と言うことが分かり、
よく飲みに連れて行ってもらっているというのは、
秘密の話……。
「俺も何回か営業行ったけど、
年配の方も多いし、
なかなか話ししてもらえへんかったわ」
「そうなのよ。なかなか手ごわい相手だったよ。
でも、それをしても佐原には勝てなかった……。
どうして山野ホールディングスと
つながり持てたのよう!!」
「たまたま部長クラスの人と知りおうてな。
よーく話聞いてもろうて、
気に入ってくれたんや」
「キーっ!!何そのたまたまって!!
何か秘策があるの!?」
「俺の第六感が金の匂いを嗅ぎ分けんねん」
「何わけ分からないこと言ってんのよ〜!!」
ギャーギャー喚いていると、
隣の由香ちゃんが、大きな咳払いをした。
「はいは〜い、
お二人さん仲良しなのは分かったから、
お仕事始めてくださぁーい」
ハッとして周りを見渡すと朝の打ち合わせが終わり、
着席し、皆仕事モードになり始めていた。
「……さぁて、俺も営業行ってこよかな」
佐原もクルッと踵を返して、出かける準備をし始めた。
「えっ!私も……!」
「先輩は先月の笹野工業の新しい見積書の作成が
ちゃんと終わってないので、
私と今日は会社でパソコンシゴトしましょ」
と、ガシッと手首を掴まれる。
可愛いのに、つ、強い。
営業に行って、
事務仕事が遅れがちになることもあり、
由香ちゃんには迷惑かけっぱなしだ。
今日は大人しく会社でデスクワーク頑張ろ……。
今日も佐原から遅れを取りつつ、
自分が残した仕事に追われていたのである。
