犬猿の仲でも溺愛が止まりません!


「俺、本気やからな。

……諦め悪いの知っとると思うけど」

佐原の強さはコミュ力だけでなく、
獲物をしっかりと捕まえることにもある。

「な、なんで。
お互い酒での失敗でしょ?」

「確かにそうやけど……、
伊藤のことがかわええと思てたのは、
……きっと初めて会った時からや。

こんな失敗、俺かて初めてや!

……そんな誰にでも手ぇ出す男やない。
こんなこと信じてもらえへんかもしれんけど……」

佐原は決して夏希には触れないが、
彼の匂いがフワッとして、
包まれているような気がした。

「佐原……」

心より身体が先だったと、夏希は思っていたが、
どうやら佐原は違うようだ。

「私……、どうしていいかわかんない。
私だって、こんなこと初めてだし!

佐原のことは、
今までライバルとしか思ってなかった……」




正直、夏希は恋愛経験が無さすぎて、
どのような反応をしていいか分からないのだ。

夏希の困った様子を見て、
「あーーそうやんな」
佐原は頭をガシガシと掻いた。

「伊藤は、ぜーんぶ初めてだったんやな。
……なら、俺かて鬼やない。
とりあえず待つわ。

だから、もう逃げんと話して……。

伊藤のキーキー言う声聞けんの辛いわ」

コトンと佐原は壁ドンしたまま
夏希の頭の上におでこを付けた。
顔は見えないが声が震えている。

「そんなこと言って……、
け、結論なんか出ないかもしれないよ?」

「んー。
初心者にいきなりは良くないと思うねん。
だからしばらく待ったる!」

佐原は顔を起こしてにかっと笑った。



「ば、ばかにして!」

顔を真っ赤にして夏希は叫ぶ。

「バカにはしとらん。

……まぁ、その顔見とると嫌われてはなさそうやから、
伊藤が忘れん程度にアピールしてくわ」

「なっ!!」

夏希の頬を急にしっかりと掴んだ佐原は

「俺のこと……考えて?
分かたら、ちゃんと伝えてな?」

と、優しい表情で真剣な眼をして伝えてきた。

「……分かった。
考えてみる」

夏希も戸惑いながら、佐原に返事をした。
一瞬2人の距離が近づく……





「んー、こうしてるとチューしてまいそうになるな」

さっきまでの雰囲気とは逆の軽薄な言い方で、
パッと佐原は離れていった。

「なっ!」

夏希も慌てて佐原から離れる。


佐原は、夏希を追い立てることなく
「じゃなー」
と別れを告げ、
颯爽と帰って行った。


夏希は、しばらく呆然としていた……