やっと金曜日になった……。
佐原から逃げ続けることに加えて、
社食にいると一軍女子たちが、
「佐原くんのこと引っぱたいた女、
ぜったい許せなあい~!!」
と、いきり立っていたので、
そっと天丼をかけ込んでその場を後にした。
……なんてことが何回かあり、
犯人は謎のままではあったが、
生きた心地がしない日々だった。
夏希は、商店街を抜けて、
一人暮らしの我が家に向けて、
とぼとぼと歩いていた。
ブーブー
と鞄の中で着信音が鳴った。
『お母さん』
と、名前が表示されると、
さらに憂鬱な気分になった。
「……もしもし……」
「夏希~!元気にしてるの?
近いんだからたまには帰って来なさいよ!」
と、元気な声が聞こえた。
「忙しいけど、元気にしてるよ」
と、答えると
「も~!残業ばかりなんじゃないの!?
そんなに仕事ばっかりだと
素敵な旦那様に出会えないわよっ!」
と、胃が重くなるような話題が唐突に現れた。
まあいつものことではあるが。
「聞いてよー!
パパったら、最近太ったって言って
ダイエット始めたのよ。
だから私の料理、たっちゃんしか食べてくれないの!
いやになっちゃう!」
たっちゃんとは、
夏希の三つ年下の弟、達也のことである。
有名私大K大の経済学部に通っている
自慢の息子のようだ。
夫大好きで、専業主婦の母。
父は亭主関白で、商社勤務のエリートだ。
寡黙なので、おしゃべりな母とは正反対だが、
とても仲が良い。
裕福だし、
何一つ不自由なく過ごしてきた。
でも、
夏希にはなんとなく劣等感が拭えなかった。
