まばゆい光の扉を、わたしはみんなといっしょにくぐった。

 とたんに、目の前が真っ白になって――。


 気がつくと、わたしは石畳の広場に立っていた。

 足もとにはカラフルな紙吹雪(かみふぶき)がひらひらと舞い、あたりにはポップな色合いの建物が並んでいる。空は紫色で、太陽は見当たらない。不思議でふわふわした空気が漂って(ただよって)いた。

「ここ……どこ?」

 思わずつぶやくと、すぐそばで声がした。

「やっぱり転送されたな。」

 振り返ると、蒼くんが腕を組んで立っていた。相変わらずのクールな顔だけど、目はきょろきょろしていて、少し緊張しているみたいだった。

「やーん、なにこれ、かわいい町~!」

 続いて紗良ちゃんが声をあげた。服のすそをひらひらさせながら、くるくる回っている。

「ここ、絵本の中みたいじゃない? お菓子の家がありそう~。」

「ふぅん……色合いが現実離れしているね。典型的な幻想系ワールド?」

 最後に姿を現した岳くんは、町のあちこちを見回していた。お兄さんキャラな彼は、いつでもどこでも観察力バツグンだ。

「よかった、みんな無事で。」

 わたしは胸をなでおろした。前のステージをクリアしてから、この“図書館の奥の世界”の仕組みもちょっとずつわかってきたけど、それでもこうやってワープするたびに、ちゃんとみんながそろうまではドキドキする。


 わたしたちは、しばらく町を歩いてみることにした。建物の窓はみんな閉まっていて、人の気配はない。

 でも、町は妙にきらびやかで、まるで仮装パレードの準備中みたいな感じだった。

 「……見て、あれ。」

 蒼くんが指さした先には、大きな仮面がかけられた塔が立っていた。白い石造りの塔。そのてっぺんには、時計の文字盤がついている。だけど、針は動いていなかった。

 「時計塔、止まってる……。」

 「ねえねえ、あれってイベントの目印じゃない? ゲームだとだいたい、真ん中の建物が重要ポイントじゃん?」

 紗良ちゃんの言葉に、わたしはうなずいた。

 「何か謎がありそうだよね。」

 「じゃ、行ってみよう。」

 わたしたちは、止まった時計のある塔へと向かった。だけど、そのときだった。

 

 カランカランカラン……

 どこからか、乾いた鐘の音が響いてきた。

 同時に、建物の奥からぞろぞろと人影があらわれた。

 仮面をかぶった人たち――赤いマントに、白くて大きな仮面。目の部分だけくりぬかれていて、表情はまったく読み取れない。

 その仮面の群れが、無言のままわたしたちのまわりをぐるりと囲んできた。

 「……囲まれてる?」

 岳くんが静かに言った。わたしは息をのんだ。

 「え、え、なになに? もしかして戦闘イベント?!」

 紗良ちゃんが、びくっとしてわたしの腕にしがみついてくる。

 「違う。……この感じは、何かを“試されてる”気がする。」

 蒼くんの目が細くなった。

 そしてそのとき、ひときわ大きな鐘の音とともに、目の前の仮面たちが道をあけた。

 奥からあらわれたのは、一人のピエロ。

 赤と青のストライプの服。顔には少し不気味な仮面。くるんと丸まった帽子の先がぴょこんと揺れる。

 「やあやあ、ようこそ!仮面の町へ!」

 ピエロは大げさにおじぎをした。