幻の図書館

 「語っていく……。」

 その言葉が、胸の奥で何度も反響した。

 わたしは何かを知りたくて、ただ本を読み続けてきた。でも、知らなかったことがある。それは「知る」ことで「伝える」責任が生まれるってこと。

 「この図書館が終わってしまうって……本当に?」

 紗良ちゃんの声がふるえていた。ふだんは元気いっぱいな彼女が、こんなふうに不安げな顔をするのは、あまり見たことがない。

 「ここで過ごした時間は、ぜんぶ夢だったって言われるのはイヤだよ……!」

 「夢じゃないよ。だって、こんなにたくさんのことを学んで、悩んで、みんなで進んできたんだから。」

 わたしはそう言って、そっと紗良ちゃんの手を握った。小さくてあたたかい、仲間の手。

 蒼くんも静かにうなずく。

 「どんなに消されそうになっても、“真実”ってやつはどこかに残る。オレたちはそれを拾ってきただけだ。」

 岳先輩は少しだけ寂しそうに笑った。

 「この図書館は終わるかもしれない。でも、ここで見たこと、出会った人、読んだ物語……全部が、自分たちの中に残る。それで十分だ。」

 わたしたち四人は、ステージの中央に並び、上空の光に包まれる扉を見上げた。金と銀の文様が浮かび、ゆっくりと開かれつつある。

 「この扉の先に出たら……もう戻ってこれないんですよね?」

 わたしの問いに、フードの人物はゆっくりとうなずいた。

 「だが、心の中に“図書館”は生き続ける。きみたちがそれを必要とする限り。」

 わたしは深く息を吸い込む。そして、静かに一歩踏み出した。

 「ありがとう、図書館。図書館があってくれたから、わたしはここまで来られた。」

 蒼くんも、紗良ちゃんも、岳先輩も、わたしのあとに続いた。

 扉の光がいっそう強くなる。まるで朝日みたいな、やさしくてあたたかな光だった。

 そして――わたしたちは、最後のページをめくるように、その扉をくぐった。