まぶしいライトが、舞台の上を照らす。

 目が慣れてくると、目の前には大きな円形の劇場が広がっていた。観客席には誰もいない。でも、不思議とざわざわとした気配があるように感じた。

 「なんだか、本物の舞台みたい……。」

 わたしは思わずつぶやいた。ベルベットの幕、きらびやかな照明、足元のきしむ木の床。そのどれもが、まるで物語の中の劇場のようだった。

 「どうやら、ここが今回の“ステージ”みたいだな。」

 蒼くんが落ち着いた声で言った。彼の視線の先には、くるくると回るカラフルなスポットライトと、吊られた看板があった。

 その看板には、こう書かれていた。

 《黄昏劇場へようこそ。役者たちよ、真実を演じよ。》

 「……真実を演じよ?」

 わたしが首をかしげると、すぐ近くからくすくすと笑う声が聞こえた。

 「配役は、こちらで決めさせてもらおうか?」

 きらびやかな衣装の紳士は、くるくると体を回しながら、まるで舞台監督のようにステージを歩いている。

 「今回は、役になりきって、“真実”を演じてもらう。舞台の上で起こるすべては、ウソか本当か、君たちの演技しだいってわけだ。」

 「どういうこと、それ……。」

 紗良ちゃんが呆れたように言ったけど、紳士は楽しそうにくるりと回って、拍手した。

 「では衣装はこちら。」

 舞台の袖から現れたのは、大きな衣装ラックだった。そこには王様や道化師、マジシャンにメイド……たくさんの役になりきるための衣装がぎゅうぎゅうに詰まっていた。

 「ひかりちゃんは、なにがいい?お姫さまとか、似合うんじゃない?」

 紗良ちゃんがわたしを軽くつついて、にっこり笑う。

 「え、そ、そんなの……どうせなら、探偵役がいいな。事件の謎を解くとか!」

 「オレはなんでもいい。全体の流れを読むのは得意だし。」

 蒼くんはクールに衣装を手に取った。岳先輩も興味深そうに衣装を眺めている。

 「じゃあ、俺は騎士役にしようかな。盾とか剣、持ってみたいし」

 誰も強制されてるわけじゃないのに、自然と衣装を選び始めるわたしたち。なんだか、学園祭の劇の準備みたいで、ちょっとだけ楽しい。

 だけど、この“舞台”には、ただの遊びじゃない何かがある気がしていた。

 「よろしい、それでは配役も決まったところで――。」

 紳士が両手を高く掲げると、劇場全体に低く響く鐘の音が鳴った。

 ゴーン――ン……。

 その音とともに、舞台が動き出す。足元の板がスライドし、背景が変わる。まるで大掛かりな演出装置のように。

 「幕が上がるよ。さあ、演じてごらん。君たち自身の“真実”を……。」

 その言葉とともに、わたしたちは、知らぬ間にある“物語”の中に足を踏み入れていた。