本棚の並びは、また少し変わっていた。並べられている本の背表紙が、前に見たときとは違う気がする。まるで、読むべき物語が、自分たちを選びなおしているかのように。

 そんな中、ひときわ目を引いた一冊があった。深いワインレッドの布張りに、金の箔押しで書かれた文字。

 ――『黄昏座』

 手に取った瞬間、空気がすっと冷たくなった気がした。

 「次は演劇の世界……かな。」

 ページを開いた瞬間、金色の光があふれ出し、わたしたちの足元から空間がほどけていく。まぶしさに目を閉じた次の瞬間、わたしは別の場所に立っていた。

 ほんのり夕焼け色に染まる空。目の前には、古びた大劇場がそびえている。

 木の外壁にはひびが走り、古いポスターが風にゆれている。だけど、不思議なことに、劇場のまわりには人の気配がまったくなかった。静まり返った街に、わたしたちの足音だけがコツコツと響く。

 扉の上には、金属の文字で劇場の名前が刻まれていた。

 ――黄昏座。

 「この世界、なんだか……さびしそう。」

 わたしがそうつぶやくと、かすかに風が吹いて、劇場の扉がギイ……と音を立てて開いた。

 「ようこそ、舞台の世界へ。」

 その声がした瞬間、わたしたちのまわりの景色がふわっと揺れた。

 気がつくと、わたしたちは舞台の上に立っていた。観客席には、誰もいない。でも、天井のライトだけがわたしたちを照らしていた。

 「いったい……どうなってるの?」

 すると、舞台の奥から、きらびやかな衣装をまとった1人の紳士が、ふわりと姿を現した。

 「君たちに、役を演じてもらう。舞台の幕が閉じるその時まで、誰が“本当の役者”かを見つけなければ、この物語から出ることはできない。」

 その言葉に、わたしたちは思わず顔を見合わせた。

 またしても始まった、新たな物語。
 だけど今回は、何かが違う。空気の底に沈んでいるような、深い闇の気配。

 わたしたちは、黄昏の劇場で、どんな真実と出会うのだろうか――。