光の道を抜けた先には、広い空間が広がっていた。

 そこは森の中とは思えない、不思議な場所だった。草の代わりに光の粒が地面を照らし、頭上には、満天の星空がきらめいていた。だけど、それは夜空じゃない。どこか遠い記憶の断片――まるで、誰かの夢の中にいるような、そんな感覚。

 「ここが……森の奥?」

 わたしがそうつぶやいたとき、目の前に古い書見台が現れた。そこには、一冊の本が開かれていた。

 表紙には、なつかしい気がする花の模様。

 「これ……リリィの、物語?」

 わたしがそう言うと、リリィはそっとうなずいた。

 「わたしは……もともと、本の中の登場人物だったの。だけど、あるときだれかが“物語の途中でページを閉じた”の。」

 「途中で……?」

 蒼くんが眉をひそめた。

 「うん。それでわたしは、物語の中にとり残されてしまったの。声も、名前も、物語の続きも、ぜんぶどこかへ消えてしまって……。」

 リリィの目に、また涙がにじむ。

 「だから、こうしてあなたたちに出会えたことが、すごくうれしい。わたしの物語を、最後まで読もうとしてくれたから……。」

 わたしたちは無言で顔を見合わせた。

 たぶん、わたしたちがこの本の世界に来たのは、偶然なんかじゃなかった。

 「最後まで読もう、リリィ。あなたの物語を。」

 わたしはそっと本のページに手をのせる。

 そのとき、まぶしい光がページからあふれ、辺りがぱっと照らされた。

 風が吹き、森の木々がざわめく。

 そして――リリィの姿が、ゆっくりと空へと浮かんでいった。

 「ありがとう、ひかりちゃん……みんな……。」

 リリィの声が、森じゅうに響いた。その声は、まるで風のようにやさしく、森の奥深くまで届いていくようだった。

 ふと気づくと、わたしたちはまた、あの図書館に立っていた。

 あの夢のような森の本は、静かにページを閉じていた。

 「……リリィの物語、終わったんだね。」

 わたしはそっとつぶやいた。

 でも、不思議とさびしさはなかった。だって、彼女はもう“声”を取り戻した。きっと、だれかがまたあの本を開けば――彼女の声が、ちゃんと聞こえるから。

 「さあ、次の物語へ進もう。」

 岳先輩の言葉に、わたしたちはゆっくりうなずいた。

 図書館は、まだまだたくさんの秘密をかかえている。

 わたしたちの冒険も、まだ終わらない。