また、あの光に包まれた。

 目の前に浮かぶ本を手に取った瞬間、ふわりと体が宙に浮き、やさしい風に乗るようにしてわたしたちは光の中へ吸いこまれていった。

 気がつくと、しっとりとした空気の中、やわらかい土の上に立っていた。

 そこは、見たこともない森だった。葉の色は青と緑のあいだのような不思議な色で、枝はなぜか空に向かってゆるやかにカーブしている。足元には苔のじゅうたん。空は淡いミルク色の霧におおわれて、木々の間からかすかに光がさしていた。

 「ここが今回の舞台ってことかな……。」

 ぽつりとつぶやくと、すぐそばで「やけに静かだな。」と蒼くんが答える。

 ふと、本から音がした。……すすり泣くような、弱々しい声。

 「誰か……いるの?」

 吸い込まれるように、森の奥の方へ、わたしたちはそっと歩き出した。

 しばらく進むと、大きな木の根元に、白い服を着た女の子がすわっていた。肩をすくめて、ひざをかかえている。顔は髪にかくれてよく見えない。

 わたしはそっと近づき、ひざをかがめて声をかけた。

 「大丈夫?ここで何をしてるの?」

 女の子は、ぴくりと肩をふるわせた。でも、何も言わない。ただ、かすかに首をふった。

 話せないのか、それとも言いたくないのか……。

 そのとき、彼女の足元に落ちていた紙切れに気づいた。

 そっと拾ってみると、そこにはきれいな丸い文字で、こう書かれていた。

 ――「おねがい、わたしの声をさがして。」

 まるで、本から聞こえたあの言葉と同じ。

 「この子……声をなくしちゃったの?」

 わたしが思わずもらすと、そばにいたみんなも無言でうなずいた。

 本から聞こえた声は、たぶん彼女の心の中の叫びだったのだ。

 どうして声をなくしたのか、どうやって取りもどせるのか、それはまだわからない。

 でも――。

「大丈夫。きっと見つけるよ。あなたの声、わたしたちが探してあげる。」

 わたしはそっと、少女の手をにぎった。