幻の図書館

 「“あの図書館”の秘密って、どういうこと?」

 わたしが問いかけると、しおりくんはしばらく黙っていた。そして、図書館の奥をそっと指差した。

 「いちばん奥に、“閉じられた本”がある。それは誰にも開けられない本……ずっと、鍵がかけられたままなんだ。」

 「鍵?どんな鍵なの?」

 紗良ちゃんが身を乗り出すと、しおりくんは小さく首をかしげた。

 「それは……“思い出”でできた鍵。失われた記憶を集めて、その本を開くしかない。」

 「記憶を集めるって、どうやって?」

 岳先輩がたずねると、しおりくんは図書館の空中をひとさし指でなぞった。

 すると、不思議なことに、空中に淡く光る扉がひとつ現れた。

 「この図書館には、記憶のかけらにつながる“ページの扉”がある。その先に入って、記憶を取り戻すんだ。」

 「まるで、また本の中に入るみたいだね」

 わたしがつぶやくと、しおりくんは静かにうなずいた。

 「でも、気をつけて。そこには、その記憶を守る“忘却の番人”がいる。簡単には思い出を返してくれないよ。」

 「忘却の番人……?」

 わたしたちは、顔を見合わせた。

 ただの謎解きじゃない。今度は、誰かの心の奥に触れるような、不思議な試練が待っている気がした。

 「それって……ゲームみたいなルールってこと?」

 蒼くんが冷静に確認すると、しおりくんはわずかに微笑んだ。

 「そう。でも、これはゲームのようでいて、現実にもつながる試練。記憶とは、人の大切な一部だからね。」

 わたしは、ぎゅっと胸の前で手を握った。

 どんな記憶が待っているのか、怖い気もする。でも、避けてはいけない気がした。

 「よし……行ってみよう。みんな、準備はいい?」

 「もちろん!」

 紗良ちゃんが元気に手をあげた。

 「危険があっても、誰かを救えるならやる意味はある」

 蒼くんは相変わらずそっけないけど、ちゃんとやる気だ。

 「記憶……か。おもしろそうだね。」

 岳先輩も、ほんの少しわくわくしたように笑った。

 しおりくんが、わたしたちを扉の前へと導いた。

 「この先にあるのは、“はじめて忘れられた記憶”。とても古く、でも誰かにとって大事なもの……気をつけて。」

 その言葉とともに、わたしたちは、光る扉の中へと足を踏み入れた――。