まばゆい光の中を通りぬけて、わたしたちはまた“本の世界”へ来てしまった。

 まるで、ふわふわと夢の中を漂っているみたいだった。まぶしい光がすっと引いていくと、目の前に広がっていたのは――。

 「……ここ、図書館……?」

 そうつぶやいたのは、紗良ちゃんだった。

 たしかにそこは図書館のようだったけど、わたしの知っているものとはまったくちがっていた。

 古くて、ひっそりとしていて、本棚がまるで木の幹みたいに見える。天井は高くて、光はほんのり青白く揺れている。あちこちにホコリがたまっていて、何十年も誰も足を踏み入れていないようだった。

 「変だね。図書館の世界なのに、本がほとんど……ない?」

 岳先輩が小声で言った。

 たしかに、棚はたくさんあるのに、並んでいる本はまばらで、しかも全部、表紙が真っ黒でタイトルも書かれていない。

 「なんだか気味悪いね……。」

 わたしがそう言ったときだった。ふいに背後で、ぎい……という重たい音がした。

 「うわっ、ひかりちゃんっ!ドア、閉まっちゃった!」

 紗良ちゃんが振り返って叫ぶ。

 わたしたちが通ってきたはずの光の入口は、どこにも見えなくなっていた。

 「……閉じ込められた、ってことか。」

 蒼くんがため息まじりに言った。

 「でも、どこかに出口があるはずだよ。今までも、必ず“クリアする方法”があったし……。」

 そう言ったのは岳先輩だった。心強いけど、ここの空気は、今までよりもずっと不気味で、冷たい。

 わたしはポケットの中にしまっていた「本」のページをそっと開いてみた。

 そこには、たったひとつだけ、金色の文字が浮かびあがっていた。

 『忘れられた記憶を探し出せ。そうすれば道は開かれる』

 「記憶を……探す?」

 そのときだった。

 ひゅう、と冷たい風が棚の間をすりぬけ、ひとつの本が床に落ちた。

 わたしはそっとその本を手に取る。けれど、やっぱり表紙には何も書かれていない。

 でも――ページをめくると、中には、うすくぼんやりと、人の影のような絵が描かれていた。

 「……これ、だれかの“記憶”なのかも。」

 わたしは、そう思った。

 この図書館には、忘れられてしまった“だれかの記憶”が本になって眠っている。たぶん、それを見つけて、読み解いていけば――出口につながる“鍵”が見つかる。

 だけどそれはきっと、ただの記憶じゃない。

 わたしたち自身にも関わってくる、“なにか大切な真実”なのかもしれない――。