「これが次の本……?」

 『鏡の館とふたつの自分』

 「また、行かなきゃ」

 こわい。でも、知りたい。

 ここにある謎が、もしかしたら、この世界に起きる“何か”を止める鍵になるかもしれないって……わたしには、そんな気がしてならなかった。

 「そうだね!がんばろう……!」

 そう言ってくれた紗良ちゃんの笑顔は、ちょっとだけこわばってたけど、すごく心強かった。

 「そうだな、今回は俺も調べておきたいことがある。」

 蒼くんはそう言って、静かに本を手に取った。

 岳先輩は、少しだけためらってから、にっこり笑った。

 「じゃあ、また本の世界で会おうか。今度こそ……もっと奥まで、たどりつこう。」

 そして、新たな本の表紙が、ゆっくりと光を放ちはじめた。

 『鏡の館とふたつの自分』

 わたしは、そっとその本に手を伸ばす――。

 ふわりと体が浮かぶ感覚。まぶしい光につつまれて、時間も空間も、現実のすべてが遠のいていくような、不思議な感覚だった。

 そして、目を開けたとき――わたしたちはそこに立っていた。

 鏡の世界だった。

 床も壁も、天井まで、すべてが鏡でできている。足元にはわたしの姿が映り、左右にも、上にも、何百、何千もの“わたし”がいた。

 でも、その“わたし”は、少しずつ、どこかが違っていた。髪型、表情、立ち方……似ているけれど、どれも完ぺきな鏡うつしじゃないように感じる。まるで、たくさんの“わたしじゃないわたし”が、こちらをのぞいているみたいだった。

 「ちょっと、気持ち悪い……。」

 紗良ちゃんがぽつりとつぶやいた。たしかに、なんだか落ちつかない。鏡の中の自分が、自分じゃない気がして、背中がぞくっとする。

 わたしが一歩踏み出したそのとき――鏡の中の“わたし”が、すこしだけ口元を動かした。にやり、と。

 (え?今、笑った?)

 心臓が、どきんと跳ねた。今のは、錯覚だったのだろうか?でも、たしかにわたしは見た。わたしの動きとは違う“鏡の中のわたし”を。

 岳先輩が静かに言った。

 「ここは……ただの鏡の部屋じゃない。なにかがいる。」

 その言葉に、わたしの背中がぞくりと冷たくなった。