わたしの名前は七瀬(ななせ)ひかり。中学2年生の十四歳。ちょっぴり変わってるって言われることもあるけど、本を読むのが大好きな、ふつうの女の子だ。

 家に帰ってゲームするより、図書室で本を読むほうが楽しいし、放課後に友だちと寄り道するよりも、図書館でひとり静かにすごすのが心地いい。ミステリーやファンタジー、歴史の本も好き。特に推理小説は、読んでるとわくわくする。知らない世界や、不思議な事件に触れるたびに、頭の中がどんどん広がっていく感じがして。

 「ひかりって、ほんとに本の虫だよね〜!」

 そう言って笑うのは、クラスメイトのアユミちゃん。わたしとは正反対で、いつも元気いっぱい、友だちもたくさんいる人気者だ。

 「そうかもね。でも、わたしにとっては、本の世界って宝物なの。」

 そう答えると、アユミちゃんは目を丸くして、「なんかカッコいい〜!さすがひかり先生!」なんてちゃかしてくる。

 アユミちゃんは、いつもこんなふうにわたしをからかうけど、本当は優しい子だってわかってる。だから、つい笑ってしまう。

 その日は金曜日で、部活も用事もなし。夕方まで図書室でのんびりできると思うと、ちょっとウキウキしていた。

 図書室のドアを開けると、冷んやりとした空気が顔にふれて、ちょっとだけ気持ちが引きしめられる。この空気、すき。紙のにおいと、静かな時間が流れてるこの場所は、わたしの「秘密の部屋」みたいなものだ。

 「こんにちは、理子先生。今日も来ました。」

 カウンターにいた司書の先生に声をかけると、先生は優しく笑ってうなずいた。返却箱の中には何冊かの本。わたしはそれをチラリと見て、背表紙のタイトルをチェックする。

 (うーん、今日は新しいミステリーないかな……?)

 本棚を一つひとつ見てまわる。古い文学全集のコーナーや、だれも読まなさそうな百科事典の棚までのぞいてみるのが、わたしの楽しみだった。

 そのときだった。

 本棚のすき間から、ぼんやりとした光がもれているのに気づいた。

 「……あれ?」

 何度も来てる図書室だけど、こんなすき間あったかな? それに、あの光は……?

 わたしは、つい好奇心にまかせて、すき間に足をすべりこませた。本棚と本棚の間を抜けていくと、細くて暗い通路が続いていた。

 通路の先には、古い木の扉があった。よく見なきゃ気づかないような、図書室の奥の奥——まるで誰かが隠したかのような場所だった。