最初に入ったガチャガチャのショップを皮切りに、わたしたちは幾つかのお店をハシゴした。
おもちゃ屋さん、雑貨屋さん、本屋さん。気になったものは手にとってみて、雑談する。そんなふうにしていく中で、わたしたちは商店街のある文具店に入っていた。
「ちょっと奥を見てくる」
「わかった。わたし、この辺りにいるね」
「おー」
ノートがなくなったんだと言っていた野崎くんを見送り、わたしは店の真ん中辺りに留まる。そこには可愛らしい消しゴムやシールが置かれていて、わくわくしたんだ。
「……よいっしょっと」
「?」
ふと聞こえたしんどそうな声に、わたしはキョロキョロと周りを見てみた。するとレジ奥から出てきた店員さんが、重たそうな段ボール箱を運んでいるところだった。店員さんは七十歳は超えていそうなおじいさん。おじさんの方がいいのかな。とにかく、お年を召した方だった。
他に店員さんはいないのかと見るけれど、他にはいなさそう。それにレジ奥のおそらくこれから出す段ボール箱は、まだ十箱くらい置いてあった。
(きっと、これは差し出がましいこと。けど、このおじさんが腰を悪くするよりも良いよね)
勝手な想像で、おじさんにお孫さんがいるとして、お孫さんと遊ぶには体力が要る。だから、腰を悪くしたらいけない。
わたしはそう想像で結論付け、密かに持ってきていたキャップを目深にかぶってから、店員のおじさんに話しかけた。
「あの、すみません」
「なんだぁ、何か探し物かい?」
「いえ。……あの、差し出がましいのですが、お手伝いさせてもらえませんか?」
「手伝いって……この箱を運ぶのをか? あんたみたいな細い嬢ちゃんが?」
「そうです。細いかもしれませんけど、力は人並み以上にあるので……。友だちが戻って来るまで、少しだけ」
重たそうだったので……。そう付け加えると、おじさんは苦笑いした。
「本当は、お客さんに手伝ってもらうなんていけないんだろうが……。実は数日前から腰が痛くてな。レジの机に置くから、それをここに積み上げてくれるか? それだけで、かなり助かる」
「わかりました! ありがとうございます」
早速わたしは、レジ奥からおじさんが出してくれる一抱えある段ボール箱を移動させていく。正直、一般的な女の子の力なら持ち上げるのに一苦労しそうな重さだったけれど、わたしにとっては軽いもの。落とさないよう気を付けながら、移動させた。うっかり落としたら大変だから。
「よっと……」
「嬢ちゃん、力持ちだなぁ。凄く助かったよ、ありがとな」
「いえ、お役に立てて良かったです。……あ、わたしが手伝ったこと、誰にも内緒にしてくださいね」
「わかった。俺としても、他のスタッフにバレたらカッコ悪いからな」
幸い、野崎くんが戻って来るまでに十箱の段ボール箱を移動させることが出来た。おじさんが新たな作業を始めるのを見て、わたしはその売り場を離れた。あの段ボール箱の中身は、たくさんのノートだったみたい。
帽子を取って鞄の中に隠し、別のレターセットなどを並べてある売り場で眺めていると、袋を持った野崎くんが「お待たせ」と駆け寄って来る。
「待たせてごめん」
「ううん、大丈夫。欲しいのは買えた?」
「ああ。角田は良いの? 色々見てたんだろ」
「うん、大丈夫。次、行こう」
野崎くんの背中を押しながら、視線を感じて振り向く。すると、さっき手伝ったおじさんがニッと笑ってこっちを見ていた。お願いですから、わたしが手伝ったって誰かに言わないでくださいね。約束ですからね! と無言で念を送っておいた。
「角田?」
「どうかした?」
「いや。そろそろ腹減らねぇ?」
「そういえば……もう十二時半だね」
スマホの画面を見れば、時刻がわかる。わたしたちは商店街にあるファミレスに入って、午後の計画を練ることにした。
幸い、ファミレスは席数が多くて十分もせずに席に案内される。向かい合う二人席、しかも壁際だ。
「角田、何にする? 俺は……」
「わたしはこれにしようかな。……うん、決定」
「了解。じゃ、注文しようぜ」
置いてあったタブレットで注文を済ませて、わたしたちは早速午後はどうしようかと話し合う。
「レジとかで店員にあの人のこと何度か聞いたけど、噂を知っている人はいたけど、本人と喋ったことのある人はいなかった。容姿とか、本人に繋がる手がかりもなかったよ」
「いつの間に……」
聞き込みをしていたなんて、全然知らなかった。正直に言うと、野崎くんは「だろうな」と笑う。
「何となく、バレないようにと思って密かにやってたからな。ってことで、午後はショッピングモールも少しのぞきたいんだ。角田はどう思う?」
「良いと思うよ。また別の証言を得られるかもしれないもんね」
「そうそう、さんきゅ」
丁度その時、注文していたものが来た。オムライスはわたし、ハンバーグは野崎くんに渡す。それらを食べながら、わたしは午後の予定を頭の中で反芻していた。
おもちゃ屋さん、雑貨屋さん、本屋さん。気になったものは手にとってみて、雑談する。そんなふうにしていく中で、わたしたちは商店街のある文具店に入っていた。
「ちょっと奥を見てくる」
「わかった。わたし、この辺りにいるね」
「おー」
ノートがなくなったんだと言っていた野崎くんを見送り、わたしは店の真ん中辺りに留まる。そこには可愛らしい消しゴムやシールが置かれていて、わくわくしたんだ。
「……よいっしょっと」
「?」
ふと聞こえたしんどそうな声に、わたしはキョロキョロと周りを見てみた。するとレジ奥から出てきた店員さんが、重たそうな段ボール箱を運んでいるところだった。店員さんは七十歳は超えていそうなおじいさん。おじさんの方がいいのかな。とにかく、お年を召した方だった。
他に店員さんはいないのかと見るけれど、他にはいなさそう。それにレジ奥のおそらくこれから出す段ボール箱は、まだ十箱くらい置いてあった。
(きっと、これは差し出がましいこと。けど、このおじさんが腰を悪くするよりも良いよね)
勝手な想像で、おじさんにお孫さんがいるとして、お孫さんと遊ぶには体力が要る。だから、腰を悪くしたらいけない。
わたしはそう想像で結論付け、密かに持ってきていたキャップを目深にかぶってから、店員のおじさんに話しかけた。
「あの、すみません」
「なんだぁ、何か探し物かい?」
「いえ。……あの、差し出がましいのですが、お手伝いさせてもらえませんか?」
「手伝いって……この箱を運ぶのをか? あんたみたいな細い嬢ちゃんが?」
「そうです。細いかもしれませんけど、力は人並み以上にあるので……。友だちが戻って来るまで、少しだけ」
重たそうだったので……。そう付け加えると、おじさんは苦笑いした。
「本当は、お客さんに手伝ってもらうなんていけないんだろうが……。実は数日前から腰が痛くてな。レジの机に置くから、それをここに積み上げてくれるか? それだけで、かなり助かる」
「わかりました! ありがとうございます」
早速わたしは、レジ奥からおじさんが出してくれる一抱えある段ボール箱を移動させていく。正直、一般的な女の子の力なら持ち上げるのに一苦労しそうな重さだったけれど、わたしにとっては軽いもの。落とさないよう気を付けながら、移動させた。うっかり落としたら大変だから。
「よっと……」
「嬢ちゃん、力持ちだなぁ。凄く助かったよ、ありがとな」
「いえ、お役に立てて良かったです。……あ、わたしが手伝ったこと、誰にも内緒にしてくださいね」
「わかった。俺としても、他のスタッフにバレたらカッコ悪いからな」
幸い、野崎くんが戻って来るまでに十箱の段ボール箱を移動させることが出来た。おじさんが新たな作業を始めるのを見て、わたしはその売り場を離れた。あの段ボール箱の中身は、たくさんのノートだったみたい。
帽子を取って鞄の中に隠し、別のレターセットなどを並べてある売り場で眺めていると、袋を持った野崎くんが「お待たせ」と駆け寄って来る。
「待たせてごめん」
「ううん、大丈夫。欲しいのは買えた?」
「ああ。角田は良いの? 色々見てたんだろ」
「うん、大丈夫。次、行こう」
野崎くんの背中を押しながら、視線を感じて振り向く。すると、さっき手伝ったおじさんがニッと笑ってこっちを見ていた。お願いですから、わたしが手伝ったって誰かに言わないでくださいね。約束ですからね! と無言で念を送っておいた。
「角田?」
「どうかした?」
「いや。そろそろ腹減らねぇ?」
「そういえば……もう十二時半だね」
スマホの画面を見れば、時刻がわかる。わたしたちは商店街にあるファミレスに入って、午後の計画を練ることにした。
幸い、ファミレスは席数が多くて十分もせずに席に案内される。向かい合う二人席、しかも壁際だ。
「角田、何にする? 俺は……」
「わたしはこれにしようかな。……うん、決定」
「了解。じゃ、注文しようぜ」
置いてあったタブレットで注文を済ませて、わたしたちは早速午後はどうしようかと話し合う。
「レジとかで店員にあの人のこと何度か聞いたけど、噂を知っている人はいたけど、本人と喋ったことのある人はいなかった。容姿とか、本人に繋がる手がかりもなかったよ」
「いつの間に……」
聞き込みをしていたなんて、全然知らなかった。正直に言うと、野崎くんは「だろうな」と笑う。
「何となく、バレないようにと思って密かにやってたからな。ってことで、午後はショッピングモールも少しのぞきたいんだ。角田はどう思う?」
「良いと思うよ。また別の証言を得られるかもしれないもんね」
「そうそう、さんきゅ」
丁度その時、注文していたものが来た。オムライスはわたし、ハンバーグは野崎くんに渡す。それらを食べながら、わたしは午後の予定を頭の中で反芻していた。
