「じゃあ、ここまでだな」
「あ、うん。一緒に帰ってくれてありがとう」
三つ目の曲がり角。ここでわたしは右に曲がって、野崎くんはもう一つ先まで行く。
結局、野崎くんにわたしがおばあさんを手伝ったんだって言うことが出来なくなってしまった。というか、彼のおばあさんへの気持ちを知ってしまったから。
(これはわたしが逃げまくって、見つからないようにするしかないかな)
見つからなければ、諦めるかもしれない。わたしはそう結論付けて、手を振って別れようとした。
その時、野崎くんが「あのさ」と話しかけてくる。
「何?」
「実は、角田に頼みがあるんだ」
「頼み? わたしに出来ることならだけど……」
頼みだなんて、何だろう。そう思って尋ねてみると、野崎くんは思いがけないことを言ってきた。
「俺の人捜し、手伝ってくれないかな?」
「――へ?」
思わず、変な声が出た。何がどうなったらそんな提案をする気になるのかわからない。
「な、なんでわたし!? それこそ朱李ちゃんとか、他の子でも良いわけじゃない? ほら、青山くんだっているし……」
「竜之介には断られた。土日も部活ある時もあるしって。……まあ、他にも理由はあるんだけど」
「そっか……。じゃあ、他の子は? 別に、こう言っちゃなんだけど、わたしと野崎くんってそこまで親しいわけじゃないし、昼間のことを気にしてるのなら気にしなくて全然問題な……」
「俺自身が、角田に手伝ってもらいたいんだよ。駄目かな? 毎週引っ張り回そうとしてるわけじゃない。時間がある時、街の中でそれっぽい人がいたら教えて欲しいんだ」
「……」
わたしの頭の中は、混乱していた。何でわたしに声をかけてくれたのかとか、彼の捜し人の正体はわたしだから、絶対に見付からないのにとか、でも他の誰かじゃなくてわたしを選んでくれて嬉しいとか。最後のはなんでそういうことを思ってしまったのかわからないけれど。
わたしが困っていると思ったのか、野崎くんは「困らせてごめん」とうつむいた。
「角田なら、協力してくれるかもって思ったんだ。だけど、もちろん嫌なら断ってくれて良い。これは俺が勝手にやってることだし、角田になら迷惑かけても良いだなんて思ってないから」
「……頻繁には、手伝えないよ? 本当に、街中でもしも見かけたら報告するくらいのことしか出来ないけど」
「……いい、のか?」
おそるおそる野崎くんが聞いて来るから、わたしは「うん」とうなずいた。根負けした、と言った方が正しいのだけど、わたしは野崎くんの人捜しに協力することになった。
☆
「……あぁ、何で協力するなんて言っちゃったかなぁ……?」
帰宅して宿題してご飯を食べて、色々してあとは寝るだけ。そうなった時、わたしはベッドに突っ伏して枕に向かってため息をついていた。
捜す必要なんてない。野崎くんが捜しているのはわたしだよ。なんて、ドラマみたいな台詞をへたれなわたしが言えるはずもない。
一人もんもんとしていたわたしの耳に、スマホの通知音が聞こえた。誰だろう、朱李ちゃんかな。そう思ってスマホを見て、思わずそれを取り落とす。カーペットの上でよかった。急いで拾って、画面を凝視する。
「な、何で!? ……あ、帰り際に交換したんだっけ、連絡先」
スマホの画面に映し出されていたのは、野崎透矢という名前。わたしに人捜しを一緒にしようと提案してきた、クラスメイトの男の子の名前だった。
名前の下に、送られてきたメッセージの冒頭だけ表示されている。わたしはアプリを開くかどうか数分悩んだけれど、意を決して画面をタップした。そして野崎くんの名前あるページを開く。
『角田、こんばんは。早速メッセージ送ってみた! 今日はありがとな。』
『ばあちゃんの話だけど、協力してくれる友だちが出来たって言ったら、喜んでた。喜んでたけど、俺に「その子に迷惑かけないように」って注意してくるんだぜ。気を付けるけど、何か止めて欲しいこととかあったら言ってくれな』
「……ほんとにわたし、野崎くんと連絡先交換したんだ。何か、不思議な感じ」
クラスの全員とは一応連絡を取ることは出来る。連絡用のグループがあるから。でも個人的にはとなると、朱李ちゃんの他には女子が数人くらいのもの。わがことながら、交友関係狭いな……。
でも今はその中に、野崎くんの名前がある。ちょっとこそばゆい。
「――じゃなくて、返事しなきゃ! 既読スルーしちゃう」
わたしは急いでメッセージの中身を考えて、間違えないように文字を打つ。
『こんばんは! こちらこそ、今日はありがとう。楽しかったよ』
『見付けられるかはわからないけど……。おばあさんには大丈夫ですって伝えておいて』
こんな感じで良いんだろうか。朱李ちゃんに送るのと、全く違う妙な緊張感がある。
それでも「ええい、送っちゃえ」と送信して、ほっと息をついた。
(わたし、何でこんなに緊張してるんだろ? ……明日もあるし、そろそろ寝ないと)
再び通知音が聞こえて画面をタップすれば、野崎くんから『さんきゅ。また明日な』というメッセージが届いていた。それに「おやすみ」と言っているウサギのスタンプで返し、わたしは部屋の電気を消した。
「あ、うん。一緒に帰ってくれてありがとう」
三つ目の曲がり角。ここでわたしは右に曲がって、野崎くんはもう一つ先まで行く。
結局、野崎くんにわたしがおばあさんを手伝ったんだって言うことが出来なくなってしまった。というか、彼のおばあさんへの気持ちを知ってしまったから。
(これはわたしが逃げまくって、見つからないようにするしかないかな)
見つからなければ、諦めるかもしれない。わたしはそう結論付けて、手を振って別れようとした。
その時、野崎くんが「あのさ」と話しかけてくる。
「何?」
「実は、角田に頼みがあるんだ」
「頼み? わたしに出来ることならだけど……」
頼みだなんて、何だろう。そう思って尋ねてみると、野崎くんは思いがけないことを言ってきた。
「俺の人捜し、手伝ってくれないかな?」
「――へ?」
思わず、変な声が出た。何がどうなったらそんな提案をする気になるのかわからない。
「な、なんでわたし!? それこそ朱李ちゃんとか、他の子でも良いわけじゃない? ほら、青山くんだっているし……」
「竜之介には断られた。土日も部活ある時もあるしって。……まあ、他にも理由はあるんだけど」
「そっか……。じゃあ、他の子は? 別に、こう言っちゃなんだけど、わたしと野崎くんってそこまで親しいわけじゃないし、昼間のことを気にしてるのなら気にしなくて全然問題な……」
「俺自身が、角田に手伝ってもらいたいんだよ。駄目かな? 毎週引っ張り回そうとしてるわけじゃない。時間がある時、街の中でそれっぽい人がいたら教えて欲しいんだ」
「……」
わたしの頭の中は、混乱していた。何でわたしに声をかけてくれたのかとか、彼の捜し人の正体はわたしだから、絶対に見付からないのにとか、でも他の誰かじゃなくてわたしを選んでくれて嬉しいとか。最後のはなんでそういうことを思ってしまったのかわからないけれど。
わたしが困っていると思ったのか、野崎くんは「困らせてごめん」とうつむいた。
「角田なら、協力してくれるかもって思ったんだ。だけど、もちろん嫌なら断ってくれて良い。これは俺が勝手にやってることだし、角田になら迷惑かけても良いだなんて思ってないから」
「……頻繁には、手伝えないよ? 本当に、街中でもしも見かけたら報告するくらいのことしか出来ないけど」
「……いい、のか?」
おそるおそる野崎くんが聞いて来るから、わたしは「うん」とうなずいた。根負けした、と言った方が正しいのだけど、わたしは野崎くんの人捜しに協力することになった。
☆
「……あぁ、何で協力するなんて言っちゃったかなぁ……?」
帰宅して宿題してご飯を食べて、色々してあとは寝るだけ。そうなった時、わたしはベッドに突っ伏して枕に向かってため息をついていた。
捜す必要なんてない。野崎くんが捜しているのはわたしだよ。なんて、ドラマみたいな台詞をへたれなわたしが言えるはずもない。
一人もんもんとしていたわたしの耳に、スマホの通知音が聞こえた。誰だろう、朱李ちゃんかな。そう思ってスマホを見て、思わずそれを取り落とす。カーペットの上でよかった。急いで拾って、画面を凝視する。
「な、何で!? ……あ、帰り際に交換したんだっけ、連絡先」
スマホの画面に映し出されていたのは、野崎透矢という名前。わたしに人捜しを一緒にしようと提案してきた、クラスメイトの男の子の名前だった。
名前の下に、送られてきたメッセージの冒頭だけ表示されている。わたしはアプリを開くかどうか数分悩んだけれど、意を決して画面をタップした。そして野崎くんの名前あるページを開く。
『角田、こんばんは。早速メッセージ送ってみた! 今日はありがとな。』
『ばあちゃんの話だけど、協力してくれる友だちが出来たって言ったら、喜んでた。喜んでたけど、俺に「その子に迷惑かけないように」って注意してくるんだぜ。気を付けるけど、何か止めて欲しいこととかあったら言ってくれな』
「……ほんとにわたし、野崎くんと連絡先交換したんだ。何か、不思議な感じ」
クラスの全員とは一応連絡を取ることは出来る。連絡用のグループがあるから。でも個人的にはとなると、朱李ちゃんの他には女子が数人くらいのもの。わがことながら、交友関係狭いな……。
でも今はその中に、野崎くんの名前がある。ちょっとこそばゆい。
「――じゃなくて、返事しなきゃ! 既読スルーしちゃう」
わたしは急いでメッセージの中身を考えて、間違えないように文字を打つ。
『こんばんは! こちらこそ、今日はありがとう。楽しかったよ』
『見付けられるかはわからないけど……。おばあさんには大丈夫ですって伝えておいて』
こんな感じで良いんだろうか。朱李ちゃんに送るのと、全く違う妙な緊張感がある。
それでも「ええい、送っちゃえ」と送信して、ほっと息をついた。
(わたし、何でこんなに緊張してるんだろ? ……明日もあるし、そろそろ寝ないと)
再び通知音が聞こえて画面をタップすれば、野崎くんから『さんきゅ。また明日な』というメッセージが届いていた。それに「おやすみ」と言っているウサギのスタンプで返し、わたしは部屋の電気を消した。
