神様、この恋は力づくでは叶いません!

 おばあさんの荷物運びの手伝いをして、月曜日になった。
 わたしはいつものように教室に入ったんだけど、ちょっといつもと違う雰囲気を感じた。

 (……なんか、集まってる?)

 教室の一角に、クラスメイトが十人くらい集まっている。あの席は、確か野崎透矢くんの席だよね。どうかしたのかと思いながら自分の席に座ると、それに気付いた朱李ちゃんがやって来た。

 「おはよう、水月ちゃん」
 「おはよう。ねえ、あれどうしたの?」

 わたしが野崎くんの席を見ると、朱李ちゃんは「あのね」と人が集まっている理由を教えてくれた。

 「なんでも、野崎くんが人捜(さが)しをしているんだって」
 「人?」
 「そうなんだよ、角田」

 いつの間にいたのか、野崎くんがわたしたちの傍に立っていた。ちょっとびっくりしたけれど、彼が聞いて欲しそうな顔をしているから、先を促す。

 「人捜しって、そもそも何で?」
 「実は土曜日のことなんだけど、俺のばあちゃんの買い物袋、目茶苦茶重いのに軽々持ってくれた人がいたらしいんだよ」
 「えっ……」
 「ねぇ、軽々ってどれくらいの重さなの?」

 わたしは内心冷や汗をかいていたんだけど、その動揺(どうよう)は朱李ちゃんの質問に被せられて誰も気付かなかった。それは良いんだけど、野崎くんは「実はさ……」とすごい秘密を話すように声をひそめる。

 「後で体重計に乗せて計ったら……何と二十キロ以上! それを両手でとはいえ軽々なんて、目茶苦茶すごくね!?」
 「それはすごすぎ! プロレスラーとかお相撲さんなんじゃない?」

 野崎くんと朱李ちゃんが盛り上がる中、わたしはその場で頭を抱えたかった。それ、わたしだ。

 (まさか、あのおばあさんが野崎くんのおばあさんだったなんて……! 確かに野崎くんの名前は「透矢」だ。人を選んでお手伝いしてるわけじゃないけど、これはやらかしたかな……?)

 わたしの頭の中は、どうしようでいっぱいだった。だから、次の野崎くんのセリフの意味が最初は理解出来なかったんだ。

 「すごいよな。ばあちゃん、その人とまた話がしたいって言ってて、俺もその人と会ってみたい。だから、助けてくれた人を捜そうってなったんだよ」
 「……? えっ」
 「人捜しってそういうことだったんだね! 手がかりはあるの?」

 時間差で呟くわたしの声は、小さくて誰も気付かない。それは良いんだけど、お願いだから朱李ちゃん、どんどんその話を掘り下げないで!
 わたしの願いもむなしく、野崎くんは朱李ちゃんの言葉に乗る。少し眉を寄せて、残念そうに。

 「いや、手がかりはないんだ。俺がその人を見る前にいなくなっちゃってたし、ばあちゃんの証言だけじゃわからないし……。何より、ばあちゃんの話だと、その人はフードを被った小柄な人だったらしくて」
 「ふんふん」
 「ばあちゃんは『声がかわいらしかったから、女の子かもしれない』なんて言ってたけど……ただ運ぶだけならともかく、片手で軽々っていうのが引っかかるんだよなぁ」
 「声だけなら、男の人でもかわいい声の人いるもんね。でもそれなら、もしかしたら『謎のいい人』と同じ人かもよ」

 朱李ちゃんが出したのは、名乗らず顔も見せずに人助けをして去っていくと噂の人の話。……それ、わたしなんだけどね。
 野崎くんもその噂は知っていたみたいで、「やっぱりそうか」なんて言って頷いている。

 「実は同じ人なんじゃないかとは思ってたんだ。両方人相がわからないから、何とも言えないんだけど……」
 「……野崎くんは、その謎の人に会いたい、んだよね?」

 思い切って聞いてみる。朱李ちゃんじゃなくてわたしから聞いたから、野崎くんは目を丸くした。だけど、すぐに大きく頷く。

 「ん? そうだよ。ばあちゃんが世話になったって礼を言いたいし、ばあちゃんも会いたがってたから」
 「そう、なんだね」
 「どうしたんだよ、角田?」

 実はね、そう言いかけたらよかったのかもしれない。でもわたしは、野崎くんだけではなくクラス全員がいる教室で勇気を出すことが出来なかったんだ。

 キーンコーンカーンコーン

 チャイムが鳴って、先生が入ってくる。なんとも言えないタイミングだったけれど、わたしは内心ほっとしていた。

 「何でもない。見つかると良いね」
 「……おう」

 当たりさわりのない声をかけることしか出来ない。それでも野崎くんは、ニッと優しく笑ってくれた。