神様、この恋は力づくでは叶いません!

 良い天気になった土曜日。わたしはいつものようにフードつきのパーカーを来て、百円均一ショップに行くために歩いていた。使っていた小物入れが壊れてしまったから、新しいのを探しに行くの。

 「まだ6月後半なのに、もう暑いなぁ……」

 この前早すぎる梅雨明けを迎えて、もう夏ですという天気。そろそろフードを被るのは辛くなりそうだ。とはいえ、じゃあサングラスかとも思うけど、流石に変じゃない?

 「ん? あれは……」

 お目当てのお店まで、あと五分もないくらいの距離にさしかかる。その時、わたしの前から歩いてきたおばあさんに目が止まった。
 スーパーマーケットに行った帰りなのか、大荷物。とてもじゃないけど、一人で抱えるのは大変そう。

 「……よし」

 予定変更。おばあさんを家まで送って、それから時間があったらお店に行こう。お店は逃げない。だけどおばあさんは、あのままだとおうちに帰るのがとても遅くなってしまう。周りに丁度人もいないし、良いよね。
 わたしはパーカーのフードをかぶり、おばあさんに近づいて行く。

 「あの、お手伝いしましょうか?」
 「あらあら、ごめんなさいね。子どもや孫のためにと思ってたくさん買い込んじゃって……。お願いしても良いかしら?」
 「勿論です!」

 わたしは嬉々として、おばあさんが両手に持っていた買い物袋を手にした。重いわよと言われたけれど、これくらいなら問題ない。ざっと片方の中を見たけれど、牛乳パック四本にジュース二本にヨーグルトにお肉のパックに……入れ過ぎでは!? 片方だけで十キロくらいはありそうだよこれ。

 「おばあさん、よくこれだけ買いましたね。というか、入れましたね?」
 「ふふ、入れるのは得意なのよ。久し振りに娘夫婦が帰ってくるから、透矢(とうや)ちゃんとたくさん料理したくって」
 「とうやちゃん……お孫さんの名前ですか?」
 「そうよ、いい子でねぇ……。でも良いの? 家までなんて」

 申し訳ないわ。そう言うおばあさんに、わたしは「大丈夫ですよ」と答える。代わりに、こう聞いてみた。

 「おばあさんこそ、良いんですか? 自分から声をかけておいて何ですけど、知らない人間に家を教えるみたいな感じになってますよ」
 「それこそ杞憂(きゆう)よ。あなたに悪意がないのは、ちゃんとわかるから」

 人を見る目は確かなのよ。そう言って、おばあさんは茶目っ気たっぷりに微笑んだ。

 ☆☆☆

 住宅街に入って少し歩くと、おばあさんが「ここよ」と一軒の家を指さす。築六十年ほどだという平屋の家は、確かに年月を刻んだ雰囲気を漂わせている。

 「少し待っていて。お茶でも出すわ」
 「いいえ、お構いなく!」

 確かに暑いけれど、申し訳ない。おばあさんはすぐに折れてくれたけど、遠慮しなくて良いのよと顔に書いてあった。それでも、わたしは顔をさらすわけにもいかない。

 「お気持ちだけ頂きます。ここにお荷物、置きますね?」

 そう言って、わたしは玄関先に持っていた買い物袋をそっと置いた。おばあさんは「まあまあ、ありがとう」と笑ってくれる。
 その時、家の奥から「ばあちゃん?」という男の子っぽい声が聞こえた。もしかして、お孫さんかな?

 (やばい、早く行かなくちゃ)

 後はお孫さんに任せれば大丈夫だろう。わたしはその場でぺこっと頭を下げると、走って逃げた。顔を見られて、こんな怪力の女の子なんて……そんなことを言われたら立ち直れない。

 ☆

 「……行っちゃったわ、残念」
 「おかえり、ばあちゃん。どうかした?」

 奥から現れたのは、中学生の男の子。玄関に置かれた買い物袋にぎょっとした後、自分のおばあさんと顔を合わせる。

 「ただいま、透矢ちゃん。実はさっき、買い物袋をここまで持ち帰るのを手伝ってもらったんだけど……」
 「誰いないけど?」
 「いなくなっちゃったわ。もっとお話したかったのに」
 「……ふぅん。この荷物の量を、なぁ。とりあえず、運ぶよ」
 「ありがとう」

 残念だわ。そう繰り返すおばあさんを横目に、透矢は買い物袋をキッチンへと運びながら何かを考えているようだった。