「どういうこと……?」

 捜し人がわたし(角田水月)かもしれないと思っていたと言う野崎くん。いつから、そう思っていたの。おそるおそる尋ねると、野崎くんは順を追って明かしてくれた。

 「ばあちゃんから、助けてくれた人の特徴は聞いてたんだ。俺より背が低くて、どちらかと言えば華奢。声の感じから女の子だろうって。でも女の子であれだけ力があったら、他人に言われるのは嫌かもしれないから言わないであげてって」
 「おばあさん……」

 確かに、野崎くんは一度もおばあさんを助けた人の特徴を言わなかった。その背後におばあさんの言葉があっただなんて、思いもしなかった。

 「で、俺は角田を遊びに誘った。……別にこれは、お前を助けてくれた人だと思っていたから誘ったわけじゃない」

 別に理由があるけど、今は割愛すると野崎くんは言った。わずかに頬が赤いのは、気のせい?

 「遊びに行った時、俺が離れた後、角田が店員を手伝ってるのを見たんだ」
 「あれ、見られてたの……? 何も言わないから、バレてないと思ったのに」

 野崎くんは何も言わず、手伝いが終わってから合流した。あの時のことが見られていたなんて、知らなかった。わたしが顔を曇らせたから、野崎くんが慌てる。

 「言わなくて、ごめん。確証がなかったんだ。段ボールの重さもどれくらいかわからないし、手伝うって申し出ればよかったんだけど……」

 嬉しそうに運ぶ角田を見て、邪魔するべきではないと思った。そう、野崎くんは言う。

 「誰かの役に立つのが好きなんだなって思った。それに、よくよく見たら店員のおじさんの運び方と角田のそれは全然違う。もしかしたら、目茶苦茶重いんじゃないか、角田は力が強いのかもしれないって考えた」
 「……」
 「で、最後の決定打になったのが、この前遊びに行った時にばあちゃんに会っただろ?」
 「うん」

 おばあさんに会った時は、流石に内心びくびくしていた。わたしがあの時の人だ声でわかってしまったらどうしよう、そう考えて。

 「ばあちゃんが、帰って来た俺に言ったんだよ。『今日会ったあの子が、ばあちゃんを助けてくれた恩人だ』って。それでようやく俺も、自分に確信を持てた」
 「……やっぱり、おばあさんにはバレてたか。あの時喋ったし、二回目も普通に会話したもんね」
 「確信してから、いつ角田に言おうかと悩んでた。この一週間全く話す機会がなくて、今日も無理だったから週末にメッセージを送ろうかとも考えてたんだ。竜之介にはイラついてたのバレてて、さっさと角田と話してこいって発破かけられてたしな」

 知っていたのに言い出せなくてごめん。野崎くんに謝られて、わたしは首を横に振った。謝るべきは、あなたじゃない。

 「わたしも、早く言わなくちゃって思ってたの。人捜しなんてことしなくても、わたしは一緒にいたんだから」
 「……そのことなんだけどさ」
 「ん?」

 首をかしげると、野崎くんはわずかに下を向いて手の甲で口元を隠す。頬を赤くして、ぼそぼそと小さな声で私に尋ねて来た。

 「俺の人捜しに協力してくれてた理由が『一緒にいられることが、嬉しくて、言い出せなかった』っていうのは、本当か?」
 「あっ」

 わたしは思わず手で口元を覆ってしまう。悪いことをしたわけじゃないけど、しまった言ってしまったと冷汗が出る思いだ。

 「それは……その……」
 「うん」
 「……はい、本当です」
 「ふはっ。何で敬語なんだよ」
 「だ、だって」

 恥ずかしいじゃないか。まるで、好きだって告白してるみたいで。
 恥ずかしくて下を向くわたしとは対照的に、野崎くんはくっくとずっと笑っている。そんなに笑わなくても良いじゃん!?

 「野崎くんっ」
 「悪い悪い。でも、仕方ないじゃん。……角田も俺とおんなじなんだってわかって、嬉しいんだからさ」
 「……ふぁ!?」
 「『ふぁ』って」
 「わ、笑わないでってば」

 顔が熱い。こん身の力でにらむと、野崎くんはようやく笑うのを止めてくれた。そして、目じりにたまった涙をふきながら「おんなじだよ」と柔らかく微笑む。

 「さっき俺、角田を誘った理由は他にあるって言っただろ? それが、これ。俺も、角田と一緒に遊びたかった。一緒にいたかったんだ」
 「――っ!?」

 ぼんっと顔か火が出た気がする。心臓の音が五月蝿い。

 (待って。待って? え、ってことは、野崎くんはわたしのことが……?)

 ごくん、と喉を鳴らす。おそるおそる野崎くんを見上げれば、彼も顔を真っ赤にしてわたしを見つめていた。

 「の、野崎く……」
 「人より力があるとか、そういうのは関係ない。俺は、角田水月を好きになったんだから」
 「い、今好きって……。でも、何で!? キラキラしてクラスみんなと仲良しで、わたしみたいな大人しいのにすら親切な野崎くんが、何でわたしを……」
 「……最初は、見た目がかわいいと思った。眺めていて、笑顔が良いなって思って。誰も見てないのに、廊下のごみを拾ってゴミ箱に捨てる姿にどきっとした」
 「み、見てたの……? 全然知らなかった」
 「言わなかったからな」

 苦笑いした野崎くんが、「で、角田は?」と身を乗り出してきた。その分、わたしは引いてしまうけど。

 「角田?」
 「わ、わたしも……わたしも、野崎くんが好き。憧れてただけだったけど、一緒に遊んで、優しさに触れて、ほんとに好き」
 「うん。……俺の彼女になってくれる?」
 「……うん。よろしくお願いします」

 小さく頷くと、野崎くんは「やった」と呟いてわたしを抱き締めた。びっくりしたけど心臓が五月蝿くて、わたしは精一杯彼を抱き締め返すことしか出来なかった。