野崎くんと再び遊んでから一週間が経った。
いつもなら平日も話す機会があるのに、今週は何故か全くない。その代わり、何故か倉橋くんと話す機会は異様にあったんだけど。
「角田、ペアだな。よろしく!」
「今日の日直、一緒だな」
そんな感じで、倉橋くんと一緒に行動することが多かった。彼と友だちになりたいという気持ちは本当だから、それ自体は何の不満もない。だけど、そのおかげで野崎くんと顔を合わせる機会が極端に減ったことが問題だった。
(なんとなく、クラスの女子の視線も気になるんだよね……。野崎くんと話してると地味に刺さって来てたから)
今は、みんなわたしを見る代わりに野崎くんを見ている。彼が最も話すのは青山くんだけど、今まで以上に女子たちが彼らと関わろうとしているような気がした。
「水月、寂しくない?」
「えっ」
それは、金曜日の昼休みのこと。朱李ちゃんと二人でお弁当をたベていた時のことだった。
「寂しいって何が?」
「この一週間、一度も水月が野崎くんと話してるの見てないから。それに……」
水月、気付いてないみたいだけど寂しそうだよ? 朱李ちゃんにそう指摘されてしまうくらいには、わたしは野崎くんと話したくて仕方がなかった。
でも同時に、あの日何度も「かわいい」と言われて、どう接したら良いのかわからないのも事実。ほっとした気持ちと焦りが同時に胸の中にあって、どうしようもなく持て余していた。
「……大丈夫だよ。もともと、これが普通だったんだから」
「そうかもしれないけど」
「それに、わたしは朱李ちゃんがいてくれるから、平気だよ」
「水月……」
「さ、この話はおしまいにしよ!」
それから朱李ちゃんは、この話題をその日出して来ることはなかった。しかも彼女は今日塾があり、一緒に帰ることが出来ない。
「――ということで、夕方から夜にかけて風が強くなるそうです。みんな、飛ばされないよう気をつけて帰って下さいね」
何となく窓の外を見ながら、先生の話を聞く。普段はきちんと前を向いて聞くけれど、そんな気持ちにはならなかった。確かに窓の外を見ていると、校庭の木々が風になびいて枯れた葉っぱが舞い上がっている。
(……ほんとだ、風が強い)
外に出ると、ビュウビュウ風が吹いていた。日本列島の横を通る台風の影響だという話だけど、風速どれくらいあるのだろう。生徒たちがワァワァ言いながら帰って行くのを横目に、わたしも一歩踏み出す。
(……甘く見てたかな。けど、あのまま学校にいるわけにもいかないし)
風が強い。何処からかバケツが飛ばされて転がっていった。雨が降っていないのが、幸いかもしれない。
わたしはゆっくりと歩いて、家に向かう。その途中、前を歩く見知った後ろ姿を発見した。
(――野崎くん)
どきっと胸の奥で音がした。どうやって、今まで不通に喋っていたのかわからない。野崎くんといると、自分に関してわからないことが増えていくみたいだ。
声をかけようかどうしようか、悩む。ここに朱李ちゃんがいたら、代わりに声をかけてもらうことも出来たのに。
「……」
後ろを振り返っても、前の方を見ても、わたしたち以外誰もいない。わたしはドキドキと大きな音を鳴らす心臓をそのままに、前を歩く野崎くんに話しかけようとした。
その時だった。
「……!」
「うわっ」
一際強い風が吹き、わたしも野崎くんもあおられて足を止める。その風の中、わたしの目に映ったのは、野崎くんに倒れ掛かる工事現場の足場。金属の板や棒が、風で押されてバランスを崩したんだ。
そんなことを考えたのは、ほんの一瞬。わたしはたいした考えもなく、ただ体が動くのに任せた。
(間に合え……っ)
全力で走り、野崎くんの前に躍り出る。彼も自分に崩れた足場が迫っていることに気付いて、身を固くしている。
野崎くんの見開かれ、わたしの名を呼んだ気がした。
「――はあっ!」
建設中の建物を壊さないよう、ただ足場だけを野崎くんから遠ざけるために力を使う。飛び蹴りを、野崎くんに迫っていた足場にみまった。
――ガッシャンッ。
「角田ッ!!」
足場が崩れる音と野崎くんの叫び声が、ほぼ同時にわたしの耳に届いた。
いつもなら平日も話す機会があるのに、今週は何故か全くない。その代わり、何故か倉橋くんと話す機会は異様にあったんだけど。
「角田、ペアだな。よろしく!」
「今日の日直、一緒だな」
そんな感じで、倉橋くんと一緒に行動することが多かった。彼と友だちになりたいという気持ちは本当だから、それ自体は何の不満もない。だけど、そのおかげで野崎くんと顔を合わせる機会が極端に減ったことが問題だった。
(なんとなく、クラスの女子の視線も気になるんだよね……。野崎くんと話してると地味に刺さって来てたから)
今は、みんなわたしを見る代わりに野崎くんを見ている。彼が最も話すのは青山くんだけど、今まで以上に女子たちが彼らと関わろうとしているような気がした。
「水月、寂しくない?」
「えっ」
それは、金曜日の昼休みのこと。朱李ちゃんと二人でお弁当をたベていた時のことだった。
「寂しいって何が?」
「この一週間、一度も水月が野崎くんと話してるの見てないから。それに……」
水月、気付いてないみたいだけど寂しそうだよ? 朱李ちゃんにそう指摘されてしまうくらいには、わたしは野崎くんと話したくて仕方がなかった。
でも同時に、あの日何度も「かわいい」と言われて、どう接したら良いのかわからないのも事実。ほっとした気持ちと焦りが同時に胸の中にあって、どうしようもなく持て余していた。
「……大丈夫だよ。もともと、これが普通だったんだから」
「そうかもしれないけど」
「それに、わたしは朱李ちゃんがいてくれるから、平気だよ」
「水月……」
「さ、この話はおしまいにしよ!」
それから朱李ちゃんは、この話題をその日出して来ることはなかった。しかも彼女は今日塾があり、一緒に帰ることが出来ない。
「――ということで、夕方から夜にかけて風が強くなるそうです。みんな、飛ばされないよう気をつけて帰って下さいね」
何となく窓の外を見ながら、先生の話を聞く。普段はきちんと前を向いて聞くけれど、そんな気持ちにはならなかった。確かに窓の外を見ていると、校庭の木々が風になびいて枯れた葉っぱが舞い上がっている。
(……ほんとだ、風が強い)
外に出ると、ビュウビュウ風が吹いていた。日本列島の横を通る台風の影響だという話だけど、風速どれくらいあるのだろう。生徒たちがワァワァ言いながら帰って行くのを横目に、わたしも一歩踏み出す。
(……甘く見てたかな。けど、あのまま学校にいるわけにもいかないし)
風が強い。何処からかバケツが飛ばされて転がっていった。雨が降っていないのが、幸いかもしれない。
わたしはゆっくりと歩いて、家に向かう。その途中、前を歩く見知った後ろ姿を発見した。
(――野崎くん)
どきっと胸の奥で音がした。どうやって、今まで不通に喋っていたのかわからない。野崎くんといると、自分に関してわからないことが増えていくみたいだ。
声をかけようかどうしようか、悩む。ここに朱李ちゃんがいたら、代わりに声をかけてもらうことも出来たのに。
「……」
後ろを振り返っても、前の方を見ても、わたしたち以外誰もいない。わたしはドキドキと大きな音を鳴らす心臓をそのままに、前を歩く野崎くんに話しかけようとした。
その時だった。
「……!」
「うわっ」
一際強い風が吹き、わたしも野崎くんもあおられて足を止める。その風の中、わたしの目に映ったのは、野崎くんに倒れ掛かる工事現場の足場。金属の板や棒が、風で押されてバランスを崩したんだ。
そんなことを考えたのは、ほんの一瞬。わたしはたいした考えもなく、ただ体が動くのに任せた。
(間に合え……っ)
全力で走り、野崎くんの前に躍り出る。彼も自分に崩れた足場が迫っていることに気付いて、身を固くしている。
野崎くんの見開かれ、わたしの名を呼んだ気がした。
「――はあっ!」
建設中の建物を壊さないよう、ただ足場だけを野崎くんから遠ざけるために力を使う。飛び蹴りを、野崎くんに迫っていた足場にみまった。
――ガッシャンッ。
「角田ッ!!」
足場が崩れる音と野崎くんの叫び声が、ほぼ同時にわたしの耳に届いた。
