神様、この恋は力づくでは叶いません!

 日曜日の昼前、わたしは最寄り駅の反対側に来ていた。駅前の広場で待っていると、野崎くんが「お待たせ」と駆け寄ってきてくれる。

 「ごめん、待たせたか?」
 「ううん、五分くらいかな。早く来ちゃったのはわたしだから、大丈夫だよ」

 実際、待ち合わせの時間までは後五分はある。早く来たのはお互い様だ。

 「……そっか」

 何か言いたげな野崎くんたけど、それ以上は何も言わなかった。わたしたちは連れ立って、大通りの方へと歩き出す。

 「また誘ったけど、予定とか大丈夫だった?」
 「何かあるならちゃんと言うよ。大丈夫」
 「そか。……この前は駅の向こう側だったから、今回は反対側で捜してみようと思ってさ」

 そう、わたしたちは人捜しをしている。野崎くんのおばあさんの荷物運びをした人なのだけど、その正体がわたしということを野崎くんは知らない。

 「手がかりを探しつつ、でも楽しくいこう」
 「……うんっ」

 この状況を楽しんでしまっている自分がいる。だって人捜しの件がなければ、わたしと野崎くんの接点なんてクラスメイトというだけだ。決して小さくない接点だけど、同時に大きくもない。

 (こんなふうに、好きだなって思うことも無かったのかもしれないなぁ……)

 駅のこちら側は、少し歩けば大きなスーパーマーケットや商業施設がある。まずはそちらを目指そうということになり、わたしたちは話しながら歩くことにした。

 ☆

 「そういや、倉橋とはどうだ?」
 「倉橋くん? うーん、まあまあっていうところかな」

 倉橋くんとは、ぎこちないけれど話せるようになってきた。何となく色々見ていたクラスメイトたちも、問題は解決したと思ったのかこちらを気にする様子はない。

 「改善してるみたいでよかった」
 「そうだね。小学生のわたしが知ったら、びっくりすると思うけど。……あ」
 「ん?」
 「でもわたしより、朱李ちゃんの方が倉橋くんと仲が良いかも。塾が一緒だからかな?」
 「……それだけではない、と思うけどな」

 苦笑いする野崎くんに、わたしは「最初、わたしを気にして倉橋くんのこと敵視してたから」と肩をすくめた。

 「朱李ちゃん、結構はっきりしてるとこがあるから。でもこの前仲良しだねって言ったら、『監視してるんだよ』って笑ってたな」
 「そんな気がした。竜之介も言ってたよ。『須藤は角田の番犬みたいだな』って」
 「えー? そうかなぁ」

 そんな何でもない話をしている内に、わたしたちは商業施設に着いた。

 (こっち側ってあんまり来たことないから、新鮮かも)

 大抵、駅の向こう側で用事が済んでしまう。だから、野崎くんの捜す人の手がかりはほとんどないはずだった。

 「角田は、こっちはよく来るのか?」
 「ううん、ほとんど来ないよ。けど、だから新鮮だなぁって思ってたとこ」

 アニメグッズショップやゲームセンターに入り、一台のガチャガチャをやってみる。ふわふわのボール状になった動物のマスコットだ。ラインナップは、うさぎと猫と犬とひよことイルカ。

 「角田、ずーっと見てたもんな」
 「そ、そんなに!?」
 「こういうかわいいの好きなんだろうなと思って、せっかく来たし回すのも良いよなって」

 そう笑って野崎くんがハンドルを回す。出てきたカプセルを両手で覆って持ち、わたしに場所を譲ってくれた。

 「開けないの?」
 「角田も回してから。せーので開けようぜ」
 「わかった」

 わたしも一つカプセルを出して、二人で「せーの」と言って開ける。ちょっと開けにくくて、同時にとはいかなかったけど。
 先に開けた角田くんが「あ、うさぎだ」と見せてくれた。ふわふわの真っ白な毛のうさぎさんだ。かわいい。

 「わたしも……っ。やった!」
 「角田のは……お、柴犬?」
 「うん、茶色の柴犬だぁ……。かわいい」

 耳をピンっと立てた愛らしい柴犬が来てくれた。思わず顔が緩んで、頭を指で撫でてみる。ふわふわで気持ちいい。

 「かわいいな」
 「うん、かわいい。回させてくれてありがと、野崎くん!」
 「――っ」

 柴犬のマスコットを頬の横にくっつけて、野崎くんにお礼を言う。すると何故か、野崎くんが顔を背けた。髪で隠れて表情まではわからないけれど、もしかして、照れてる?

 (……もし、少しでもわたしのことを意識してくれているのなら)

 そんな淡い期待を抱いて、わたしはおそるおそる野崎くんに尋ねてみる。心臓がドキドキと五月蝿い。

 「あの、野崎くん……わたし……」
 「角田?」

 首を傾げた野崎くんだったけれど、次の瞬間にわたしの後ろを見て目を見開いた。

 「――ばあちゃん!?」
 「えっ」

 わたしも驚いて振り返る。そして、見付けた誰かに駆け寄る野崎くんに続いてその人を認識した。思わず「えっ」という声がもれ、その人がわたしの方を見るきっかけとなった。

 「……野崎くんのおばあさま……」
 「こんにちは」

 穏やかな笑顔挨拶され、わたしは慌てて頭を下げた。