週の初めの月曜日。わたしはいつものように、教室に入る。自分の席に向かうと、須藤朱李ちゃんが手を振ってくれた。わたしの席に座って待ち構えている。
「おはよう、水月ちゃん」
「おはよう、朱李ちゃん。どうかした?」
「昨日のテレビ、見たかなぁって思って! あのね、推しの……」
パッと目を輝かせる朱李ちゃんが語るのは、大好きなアイドルが出ていたバラエティ番組のこと。朱李ちゃんが毎日のように教えてくれるから、わたしもそのアイドルに詳しくなっちゃったよ。
今日も今日とて楽しそうに話すから、わたしも「うんうん」と相槌を打つ。途中から見てたんだよね、そのバラエティ。
「……ねぇ、知ってる? 覆面人助けしてる人の話」
「聞いたことあるよ〜。ってか、近所のおばちゃんが助けてもらったって言ってたの聞いた」
もれ聞こえてきたのは、最近噂になっている謎の人物の話。小柄で、いつもフードをかぶっていて、性別も年齢も不明。ただ、声が高いから女性じゃないかと言われている。それでも性別不明なのは、その人が持つ物理的な力が尋常ではないから。
「……」
「よく聞くよね、謎のいい人の話」
「え? そ、そうだね?」
朱李ちゃんも知ってたんだ。少し動揺してしまったけど、なんとかそれはバレなかった。
「昨日かな、も聞いたもん。何でも、工事現場の外に倒れてきた鉄骨を受け止めて、元に戻したとか。人間離れしたパワーだよね」
「そ、そんな力の強い人なんているのかなぁ?」
とぼけながら、わたしの心は小さな痛みを感じていた。なにせ、その鉄骨を受け止めてもとに戻したのはわたしだから。正体を隠すためとはいえ、自分のことをいないものとして扱うのはちょっと悲しい。
すると、朱李ちゃんが「ちっちっち」と人差し指を立てて振る。何故か、すごく得意げだ。
「朱李ちゃん?」
「わたしが思うに、その謎の人は魔法を使ってるんじゃないかな!?」
「ま、魔法!?」
「そう! 実は別の次元から来た妖精に見出されて、魔法を使って人助けをしてるんだよ。それでいつか、悪の魔王と戦うんだ!」
「……朱李ちゃん、流石にアニメの見過ぎでは」
変なスイッチが入ってしまった朱李ちゃんは、わたしの言葉なんてお構いなし。そのまま、彼女の好きな異世界転生系アニメの設定を盛り込んで話を膨らませていく。こうなると、チャイムがなるまで止まらない。
わたしは朱李ちゃんの話を半分くらい聞き流しながら、鞄から教科書類を出して机の中に仕舞った。その時、キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り響く。
「――みんな、おはよう。席について」
先生がやって来て、クラスメイトがばらばらと席に戻って行く。朱李ちゃんも同じで、わたしに小さな声で「また後でね」と囁いて戻って行った。
先生の話を聞きながら、わたしは朱李ちゃんやクラスメイトが話していたことを思い出す。謎のいい人として休日になると町に出るのは、わたしにとって自分を肯定するための手段だ。こんな人間離れした力、わたしのような小娘が持って良いような代物ではないから。
(そんなわたしでも、顔を隠していれば全く違う誰かになれる。誰かになって、誰かを手助けするのは楽しい)
怪力であることを除けば、成績は中くらい、運動もそこそこ、顔は朱李ちゃんの方が可愛いから比べるものではない気がする。まあそんな感じで、比較的平均的なんだと思う。だから力があることさえ隠し通せれば、平々凡々な学生で通る。
そんなことを頭の片隅に置いていたわたしは、一時間目が移動教室であることを忘れかけてしまった。
「おはよう、水月ちゃん」
「おはよう、朱李ちゃん。どうかした?」
「昨日のテレビ、見たかなぁって思って! あのね、推しの……」
パッと目を輝かせる朱李ちゃんが語るのは、大好きなアイドルが出ていたバラエティ番組のこと。朱李ちゃんが毎日のように教えてくれるから、わたしもそのアイドルに詳しくなっちゃったよ。
今日も今日とて楽しそうに話すから、わたしも「うんうん」と相槌を打つ。途中から見てたんだよね、そのバラエティ。
「……ねぇ、知ってる? 覆面人助けしてる人の話」
「聞いたことあるよ〜。ってか、近所のおばちゃんが助けてもらったって言ってたの聞いた」
もれ聞こえてきたのは、最近噂になっている謎の人物の話。小柄で、いつもフードをかぶっていて、性別も年齢も不明。ただ、声が高いから女性じゃないかと言われている。それでも性別不明なのは、その人が持つ物理的な力が尋常ではないから。
「……」
「よく聞くよね、謎のいい人の話」
「え? そ、そうだね?」
朱李ちゃんも知ってたんだ。少し動揺してしまったけど、なんとかそれはバレなかった。
「昨日かな、も聞いたもん。何でも、工事現場の外に倒れてきた鉄骨を受け止めて、元に戻したとか。人間離れしたパワーだよね」
「そ、そんな力の強い人なんているのかなぁ?」
とぼけながら、わたしの心は小さな痛みを感じていた。なにせ、その鉄骨を受け止めてもとに戻したのはわたしだから。正体を隠すためとはいえ、自分のことをいないものとして扱うのはちょっと悲しい。
すると、朱李ちゃんが「ちっちっち」と人差し指を立てて振る。何故か、すごく得意げだ。
「朱李ちゃん?」
「わたしが思うに、その謎の人は魔法を使ってるんじゃないかな!?」
「ま、魔法!?」
「そう! 実は別の次元から来た妖精に見出されて、魔法を使って人助けをしてるんだよ。それでいつか、悪の魔王と戦うんだ!」
「……朱李ちゃん、流石にアニメの見過ぎでは」
変なスイッチが入ってしまった朱李ちゃんは、わたしの言葉なんてお構いなし。そのまま、彼女の好きな異世界転生系アニメの設定を盛り込んで話を膨らませていく。こうなると、チャイムがなるまで止まらない。
わたしは朱李ちゃんの話を半分くらい聞き流しながら、鞄から教科書類を出して机の中に仕舞った。その時、キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り響く。
「――みんな、おはよう。席について」
先生がやって来て、クラスメイトがばらばらと席に戻って行く。朱李ちゃんも同じで、わたしに小さな声で「また後でね」と囁いて戻って行った。
先生の話を聞きながら、わたしは朱李ちゃんやクラスメイトが話していたことを思い出す。謎のいい人として休日になると町に出るのは、わたしにとって自分を肯定するための手段だ。こんな人間離れした力、わたしのような小娘が持って良いような代物ではないから。
(そんなわたしでも、顔を隠していれば全く違う誰かになれる。誰かになって、誰かを手助けするのは楽しい)
怪力であることを除けば、成績は中くらい、運動もそこそこ、顔は朱李ちゃんの方が可愛いから比べるものではない気がする。まあそんな感じで、比較的平均的なんだと思う。だから力があることさえ隠し通せれば、平々凡々な学生で通る。
そんなことを頭の片隅に置いていたわたしは、一時間目が移動教室であることを忘れかけてしまった。
