神様、この恋は力づくでは叶いません!

 体が重くて、わたしはすぐにでも眠ってしまいたい衝動に駆られていた。だけど、せめて二件のメッセージを送っておきたい。そう決めて、スマホを手に取った。

 「まずは、朱李ちゃんに……」

 そう思ってスマホの画面を見ると、既に通知が来ている。誰だろうと思ってタップすれば、朱李ちゃんだった。届いたのは、一時間近く前。帰ってきた直後はなかったから、わたしがご飯を食べたり歯を磨いたりしている間だったのかも。

 『水月、倉橋くんが塾に来たんだけど、何かこっち見ててうっとおしい。何かあった?』
 「うっ……。っていうか、朱李ちゃんと倉橋くん、同じ塾なのね……。えっと『放課後、学校の案内をわたしがしたからかな?』」

 休憩時間なのか、すぐに既読がつく。

 『学校案内!? 今更!? しかも何で水月なわけ!?』
 『あ、朱李ちゃん落ち着いて……!』
 『落ち着いてられない。あの人、一発なぐってもいい?』
 『ダメダメダメ! 空手有段者がなぐっちゃだめ!』

 実は、朱李ちゃんは空手有段者。幼稚園児の頃からやっているらしくて、一度だけ見せてもらったけど、所作が綺麗で威力がえげつない。そんな人が普通の人をなぐったら、大変なことになる。
 わたしが即レスしたからか、朱李ちゃんが笑っている犬のスタンプを送り返してきた。そして『冗談よ』と返してくれる。冗談に見えなかった……。

 『実はね、わたしの小一の時の出来事を学校で秘密にしてもらう代わりに、一ヶ月だけ言うこと聞かないといけなくて……』
 『……なにそれ。ふざけんじゃないわよ。わたしの大親友を幼少期とはいえ傷つけといてそんなこと言う!? マジでなぐりそう。なぐったらごめんね』
 『怖いから! 大丈夫だから、朱李ちゃん。学校の案内くらいの頼みならかわいいもんだし』
 『そんなこと言ってると、調子乗るよ……。わかった。なぐりはしないけど、けん制だけするわ』
 『お手やわらかにね……』

 けん制と言うけれど、朱李ちゃんは何をする気だろう。倉橋くんの方がかわいそうになってきたなと苦笑いしつつ、わたしは次に野崎くんとのメッセージのやり取りを開く。
 野崎くんとは、数日に一回くらいの頻度(ひんど)でメッセージのやりとりをしている。その流れの中にこんな話題を入れるのは気が引けるけど、仕方ない。

 『こんばんは、野崎くん。今日はごめんね、ちゃんと説明もしなくて……』

 そう打って送ってから、わたしは朱李ちゃんに送ったのとほぼ同じ内容のメッセージを送る。一ヶ月間、倉橋くんの言うことを聞かなければならないことを。
 わたしがそれを打っている間に、既読がついた。何も反応がないのは、わたしの次のメッセージを待っているからかも。気持ち急いで、わたしはメッセージを送った。

 「既読は、ついた。……どんな返事が返ってくるだろ?」

 ドキドキしながら、返信を待つ。その特、丁度朱李ちゃんからウサギの『まかせて!』と言っているスタンプが送られてきた。ちょっと不安になるよ、朱李ちゃん。
 それから数分して、野崎くんからの返信が届いた。急いで見ると、まず『無事でよかった』と送られて来ていた。

 『あんな風に別れたから、気になってたんだ。嫌な思いとかしてないか?』
 『心配してくれてありがとう。大丈夫、ほんとに学校の案内しただけだったから』
 『なら、良いけど。……一か月もあいつの言うこと聞かなきゃいけないなんておかしいだろ。角田はただ、その時体が動いてやったことなのに』

 倉橋くんへの怒りと、わたしへの思いやりが含まれた言葉だと思う。胸がきゅっとした気がして、わたしは胸元をさすった。

 「……そんな風に言ってくれるんだもんね。心配してくれてるのがわかる。でも、わたしは野崎にも朱李ちゃんにも、嘘をついてるんだもんなぁ」

 枕に顔を埋める。絶対に言いたくないという気持ちと、いつか言わなければという気持ちがぶつかっている。どうして倉橋くんがわたしに意地悪をするのかわからないけれど、今は学校全体に知られることだけは避けないと。
 わたしは息をついて、野崎くんへの返信を打つ。

 『それでも、倉橋くんにはわたしをゆする格好のネタなんだと思う。何でこんなに嫌われてるのかわからないけど、わたしは大丈夫だよ。こうやって心配してくれる野崎くんがいるし、朱李ちゃんもいてくれるから』
 『いや、倉橋は角田のことが嫌いっていうよりは……』
 『野崎くん?』

 何故か、ためらうみたいな言い方だ。どうしたんだろうと思って問いかけるけど、何故か野崎くんは送ってくれたメッセージを消した。そして、別の吹き出しが現れる。

 『何でもない。明日から、倉橋が増長するとも限らない。絶対に無理はするなよ。そして、こんなことさっさとやめさせないとな』
 『犯罪には手を貸さないって言ってあるから大丈夫だとは思うけど……。気をつけます』

 それからわたしたちは、お互いに『おやすみ、また明日』と送り合った。