ショッピングモールにやって来たわたしたちは、こちらでも幾つかの店舗を見て回ることにした。
「お、何だあれ?」
「ぬいぐるみ、かな? おっきいね」
「あんなのいたら、ベッド占領されるなぁ」
けらけら笑う野崎くんと一緒に、モールの中を見て回る。彼が時折キョロキョロしているのは、人を捜しているからだろう。
そんなふうにしてウィンドウショッピングをしていると、あっという間に時間は過ぎてしまうもの。わたしは本屋さんでふとスマホを見てびっくりした。
「えっ、もう五時?」
「……ほんとだ、全然気付かなかったってか実感なかった」
「わたしも……」
ただただ、楽しく遊んでいた気がする。こんなふうにずっと楽しい時間を過ごせる相手なんて、今まで少なかったのに。中学生になってからは、朱李ちゃんくらい。
「あんまり遅くなると、親御さん心配するよな。そろそろ帰るか」
「そう、だね」
今いるのは、ショッピングモールの四階。エスカレーターを使って一階まで下りるんだけど、何故か降りたくなかった。思わず足を止めるわたしに気付いて、野崎くんが振り向く。
「どうした?」
「あ……ううん、何でもない」
「そっか」
目を瞬かせて、野崎くんは歩き出す。その歩く速さが少しだけ緩んだのは、わたしに合わせてくれたからかな。
「今日、結局見つからなかったね。野崎くんが捜してる人」
「そうだな……でも俺は、角田とこうやって遊べたから満足。ゲーセンで必死に太鼓叩いてるの面白かったし」
「あ、あれは! 久し振り過ぎてやり方忘れちゃってて……」
幼い頃に何度もやった記憶のある、リズムゲーム。いつの間にかゲームセンターに行くことはなくなって、最後にやったのがいつかわからない。けど、今日は野崎くんと並んでやった。全然スコア勝てなかったけど。
「つ、次こそは負けないから」
「……ってことは、また俺と遊んでくれるってこと?」
「あっ……そうなる、かな?」
「なんで疑問形なんだよ」
笑われて、わたしも苦笑いする。だって、まさか自分がそんなふうに思うだなんて、想像もしなかったんだよ。
「ほんとだ、疑問形になっちゃってた。今まで男の子とこうやって二人だけで遊んだこととかなかったし、自分で意外だったんだよ」
自分のことなのに、おかしいね。そう思って小さく笑ったら、野崎くんがふと改まった顔をした。
「……そういや今更だけど、親に何か言われたりした……?」
「いや? 友だちと遊びに行ってくるとしか言わなかったから、特に何も」
「そっか、ならいいや」
「?」
けろっと笑顔に戻った野崎くんは、改めて「行こうぜ」と歩いて行く。その背中を追って、わたしも彼と並んだ。
☆
朝の待ち合わせ場所に着けば、日が陰りつつあった。気温も少しだけ下がってきたみたい。
「野崎くん、今日はありがとう。凄く楽しかったよ」
「俺も。女子と二人で遊ぶなんてほとんどしたことなかったけど、楽しかったよ」
「え……いつも囲まれてるから、よく遊んでるんだと思ってたけど」
少し驚いた。目を丸くするわたしに、野崎くんは不満そうに唇をゆがませる。
「そんなことねぇよ。確かに誘われはするけど、俺も竜之介も誘いに乗ったことない。女子と遊ぶって言っても何していいかわかんないし」
「……なのに、わたしのこと誘ったの?」
何故だろう、心臓がどきどきしてる。普段の何でもない時のどきどきじゃなくて、別の特別なもののような気がする。
わたしの問いに、野崎くんは照れ笑いを浮かべた。はにかむ表情に、わたしの胸がトクンと鳴る。
「そうだな、誘っちまった。迷惑だったか?」
「う、ううん! 全然。むしろ、すごく楽しかった。……誘ってくれて、ありがとう」
くすぐったい気がして、わたしはふふっと笑いながらお礼を言う。すると野崎くんは目を丸くしてから、「おう」と笑ってくれた。
「じゃ、また月曜にな。まだ明るいけど、気を付けて帰れよ」
「野崎くんもね。また月曜日」
「ゆっくり休めよ」
コンビニに寄るという野崎くんと別れ、わたしは自宅方面へ足を向ける。駅へ向かう人々の波をぬって進んで行くと、落ち着いた住宅街の道路に出た。
(今日、楽しかったな……)
商店街でお店の人のお手伝いはしたけれど、野崎くんが帰って来るまでのことだから知られていないはず。その後のショッピングモールで歩き回ったのも、とても楽しかった。ゲームセンターで対戦したり、お店を一緒に覗いたり、朱李ちゃんと遊ぶ時とは違う子尾が出来たように思う。
(……また、誘ってくれないかな?)
きっと、野崎くんが人を捜している間ならチャンスがある。でもきっと、見付けることを諦めたなら、二人で遊ぶことはもうないかもしれない。
(変なの。ずっと、野崎くんがさっさと諦めてくれたら良いのにって思っていたのに。今は……今は、諦めないでずっと捜していて欲しいなんて思ってる)
野崎くんが捜している人の正体は、わたしだ。
怪力で人助けをしていることがバレたくなくて隠していたけれど、いつの間にかバレることが怖くなった。バレてしまったら、幻滅されたらどうしたら良いんだろう。
「……いや、だな」
たった一日一緒にいただけなのに。本音が変化してしまって、わたし自身が戸惑っている。
(朱李ちゃんに相談してみようかな……?)
帰宅してから、メッセージを送ってみよう。朱李ちゃんに送るメッセ―ジの中身を考えていたから、わたしは気付かなかった。
「……あれ? もしかして」
一つ手前の曲がり角から出て来た男の子が、わたしの後ろ姿を見て首を傾げていたことに。
「お、何だあれ?」
「ぬいぐるみ、かな? おっきいね」
「あんなのいたら、ベッド占領されるなぁ」
けらけら笑う野崎くんと一緒に、モールの中を見て回る。彼が時折キョロキョロしているのは、人を捜しているからだろう。
そんなふうにしてウィンドウショッピングをしていると、あっという間に時間は過ぎてしまうもの。わたしは本屋さんでふとスマホを見てびっくりした。
「えっ、もう五時?」
「……ほんとだ、全然気付かなかったってか実感なかった」
「わたしも……」
ただただ、楽しく遊んでいた気がする。こんなふうにずっと楽しい時間を過ごせる相手なんて、今まで少なかったのに。中学生になってからは、朱李ちゃんくらい。
「あんまり遅くなると、親御さん心配するよな。そろそろ帰るか」
「そう、だね」
今いるのは、ショッピングモールの四階。エスカレーターを使って一階まで下りるんだけど、何故か降りたくなかった。思わず足を止めるわたしに気付いて、野崎くんが振り向く。
「どうした?」
「あ……ううん、何でもない」
「そっか」
目を瞬かせて、野崎くんは歩き出す。その歩く速さが少しだけ緩んだのは、わたしに合わせてくれたからかな。
「今日、結局見つからなかったね。野崎くんが捜してる人」
「そうだな……でも俺は、角田とこうやって遊べたから満足。ゲーセンで必死に太鼓叩いてるの面白かったし」
「あ、あれは! 久し振り過ぎてやり方忘れちゃってて……」
幼い頃に何度もやった記憶のある、リズムゲーム。いつの間にかゲームセンターに行くことはなくなって、最後にやったのがいつかわからない。けど、今日は野崎くんと並んでやった。全然スコア勝てなかったけど。
「つ、次こそは負けないから」
「……ってことは、また俺と遊んでくれるってこと?」
「あっ……そうなる、かな?」
「なんで疑問形なんだよ」
笑われて、わたしも苦笑いする。だって、まさか自分がそんなふうに思うだなんて、想像もしなかったんだよ。
「ほんとだ、疑問形になっちゃってた。今まで男の子とこうやって二人だけで遊んだこととかなかったし、自分で意外だったんだよ」
自分のことなのに、おかしいね。そう思って小さく笑ったら、野崎くんがふと改まった顔をした。
「……そういや今更だけど、親に何か言われたりした……?」
「いや? 友だちと遊びに行ってくるとしか言わなかったから、特に何も」
「そっか、ならいいや」
「?」
けろっと笑顔に戻った野崎くんは、改めて「行こうぜ」と歩いて行く。その背中を追って、わたしも彼と並んだ。
☆
朝の待ち合わせ場所に着けば、日が陰りつつあった。気温も少しだけ下がってきたみたい。
「野崎くん、今日はありがとう。凄く楽しかったよ」
「俺も。女子と二人で遊ぶなんてほとんどしたことなかったけど、楽しかったよ」
「え……いつも囲まれてるから、よく遊んでるんだと思ってたけど」
少し驚いた。目を丸くするわたしに、野崎くんは不満そうに唇をゆがませる。
「そんなことねぇよ。確かに誘われはするけど、俺も竜之介も誘いに乗ったことない。女子と遊ぶって言っても何していいかわかんないし」
「……なのに、わたしのこと誘ったの?」
何故だろう、心臓がどきどきしてる。普段の何でもない時のどきどきじゃなくて、別の特別なもののような気がする。
わたしの問いに、野崎くんは照れ笑いを浮かべた。はにかむ表情に、わたしの胸がトクンと鳴る。
「そうだな、誘っちまった。迷惑だったか?」
「う、ううん! 全然。むしろ、すごく楽しかった。……誘ってくれて、ありがとう」
くすぐったい気がして、わたしはふふっと笑いながらお礼を言う。すると野崎くんは目を丸くしてから、「おう」と笑ってくれた。
「じゃ、また月曜にな。まだ明るいけど、気を付けて帰れよ」
「野崎くんもね。また月曜日」
「ゆっくり休めよ」
コンビニに寄るという野崎くんと別れ、わたしは自宅方面へ足を向ける。駅へ向かう人々の波をぬって進んで行くと、落ち着いた住宅街の道路に出た。
(今日、楽しかったな……)
商店街でお店の人のお手伝いはしたけれど、野崎くんが帰って来るまでのことだから知られていないはず。その後のショッピングモールで歩き回ったのも、とても楽しかった。ゲームセンターで対戦したり、お店を一緒に覗いたり、朱李ちゃんと遊ぶ時とは違う子尾が出来たように思う。
(……また、誘ってくれないかな?)
きっと、野崎くんが人を捜している間ならチャンスがある。でもきっと、見付けることを諦めたなら、二人で遊ぶことはもうないかもしれない。
(変なの。ずっと、野崎くんがさっさと諦めてくれたら良いのにって思っていたのに。今は……今は、諦めないでずっと捜していて欲しいなんて思ってる)
野崎くんが捜している人の正体は、わたしだ。
怪力で人助けをしていることがバレたくなくて隠していたけれど、いつの間にかバレることが怖くなった。バレてしまったら、幻滅されたらどうしたら良いんだろう。
「……いや、だな」
たった一日一緒にいただけなのに。本音が変化してしまって、わたし自身が戸惑っている。
(朱李ちゃんに相談してみようかな……?)
帰宅してから、メッセージを送ってみよう。朱李ちゃんに送るメッセ―ジの中身を考えていたから、わたしは気付かなかった。
「……あれ? もしかして」
一つ手前の曲がり角から出て来た男の子が、わたしの後ろ姿を見て首を傾げていたことに。
