神様、この恋は力づくでは叶いません!

 「――いってぇぇぇっ」

 男の人の悲鳴が上がり、道を歩く人たちが足を止める。人々の視線の先には、路地の前で自分の手首を押さえてうずくまる一人の男性がいる。黒い野球帽に黒い長そで長ズボンを身につけている。ひーひー言っているその人の後ろから、二十代の女の人が走りながら叫んだ。

 「そいつ、ひったくりです!」

 確かに男の人のそばには、女性もののかわいらしいハンドバッグが落ちている。その場は一気に騒がしくなり、警察が呼ばれてひったくりは連れて行かれた。

 「……よかった」

 路地に隠れていたわたしは、ほっと胸を撫で下ろす。パトカーが去って行くのを見送った後、何食わぬ顔で路地を出て大通りを歩いて行く。
 まさか誰も、ひったくりを最初に捕まえたのが中学二年生の女子生徒だなんて思わないよね。

 わたし、角田水月(つのだみづき)。県立第二中学校の二年生。背の順に並んで前から数えた方が早いけど、何故か腕力は誰よりも強い。確かめたことはないけど、お相撲さんよりも強いと思う。
 どうしてそんなことがわかるのかって? それは、わたしのご先祖様が大きく関係しているんだ。
 くわしくはわからないけれど、大昔にご先祖様がお相撲の神様に(あこが)れて、自宅でおまつりしていたんだって。その信じる気持ちが神様に届いて、神様が強い力を授けてくれたらしい。代々角田家では、男の人がまれにその力を受け継ぐ……そう聞いていたのに。

 (なんで、わたしは女なのに受け継いじゃったんだろう?)

 そのおかげで、たくさん嫌なことがあった。覚えていないくらい幼い頃は、物を何度も壊してしまったみたい。小学生になって自分は他の人とは違うんだって気付いて気をつけていたのに、人を傷付けてしまったこともある。
 だから、この力は絶対に人にバレたらだめ。でも全く使わないのもストレスになる気がした。
 その解決策としてわたしがたどり着いたのは、正体を隠しての人助け。さっきみたいに、ひったくりを捕まえるお手伝いをするとかね。危ないぞってお父さんやお母さんには心配されるけど、出来ることをしないで誰も助けられない人にはなりたくなかったから。

 「――あっ、約束に遅刻しちゃう!」

 スマホを取り出してみると、友だちとの待ち合わせ時間まであと五分しかない。わたしは急いで走って行った。