─── 隣にいるのが当たり前じゃないと、気づいた日。
その日のお昼、私はなんとなく落ち着かなかった。
教室に戻っても、隣の席は空いたまま。
プリントもカバンもあるから、学校には来ている。
ただ、昼休みになっても、篠原くんの姿が見えなかった。
「どうしたんだろ……」
つぶやいた声は、自分でもびっくりするくらい小さくて、情けなかった。
別に、何かあるってわけじゃない。
お昼をどこで食べるかなんて、人それぞれだし、気分で変わることだってある。
だけど私は、
もう“彼の隣にいる時間”を当たり前みたいに思っていたのかもしれない。
**
結局、昼休みが終わる直前。
彼は何事もなかったような顔で、ふらっと教室に戻ってきた。
「おかえり」
その一言をかけるのに、いつもよりちょっとだけ勇気がいった。
「ん、ただいま。ちょっと図書室寄ってた」
そう返して、彼はペットボトルの水を飲んだ。
それだけのやりとり。
だけど私の中では、昼休みの空白がずっとざわざわと残っていた。
たぶん、これは初めての感情だった。
「隣にいないだけで、こんなに気になるなんて」
そんなこと、今まで誰にも思ったことがなかった。
でも――
「……ノートのとこ、ありがとうね。助かった」
「うん」
その短い会話が終わったあと、彼がふと目線をこっちに向けた。
「……なんかさ、今日、静かだったね」
その一言に、ハッとした。
同じことを、思っていたのかもしれない。
この“なんでもない昼休み”を、
君もどこかで少しだけ感じてくれていたのかもしれない。
「うん……ちょっとだけ、寂しかった」
正直すぎるその言葉を、笑ってごまかした。
彼がどう受け取ったかは分からない。
でも、ふっと息を抜くみたいに笑ってくれた気がした。
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いつか、君の隣じゃなくなる日が来るとしても。
こうして一緒にいる時間が、
少しでも君の中に残りますように。
そんな願いが、心の奥で静かに芽生えた。
今日みたいな一日が、
思い出になる前に、伝えたいことがある。
でもそれは、もう少し先の話。
