─── ただの “となりのクラスメイト” でいられる、この時間が少し怖い。
「 はい、これ。さっきのノートのとこ、写しといた 」
放課後の教室。
帰り支度をしようとしたタイミングで、
篠原くんが私の机にそっと紙を置いた。
「あ......、ありがとう、 」
そう返した声が、自分でも驚くほど小さかった。
いつからだろう。
彼が普通に話しかけてくるだけで、
どこか胸がふわっと浮いたみたいになるのは。
「 昨日、ちょっと寝てたでしょ?笑 気づいてた 」
そう言って笑う彼の横顔に、
私の心臓は何の前触れもなく跳ね上がる。
「 起きてたよ、......たぶん。笑 」
なんて、
苦しい言い訳しか出てこなくて。
でも、それでも笑ってくれるのが、ずるいなって思った。
・
ここ最近、
授業中やちょっとした合間に交わす会話が、自然と増えていた。
それは “ 友達 ” という関係に近いものだったけど、
私はどこかで、ずっと不安を抱えていた。
この距離に、安心していいのかな。
今のままでいれば、傷つくことも失うこともないけど――
きっと何も始まらないまま、終わってしまう気がした。
「 篠原くんって、よく人のこと見てるよね 」
ぽつんと、そんなことを言った。
思ってたより、ずっと素直な声が出てしまって、自分で少し驚いた。
「 え? あー......なんか、クセなんだよね。無意識に見ちゃうっていうか 」
「 、私のことも? 」
言ってから、息が詰まった。
変な間が空いて、空気が一瞬だけ止まる。
でも篠原くんは、まっすぐこっちを見て、
照れたように少しだけ笑った。
「 まあ......それなりに? 」
冗談みたいな、その言い方が。
どうしようもなくうれしくて、
でも、その “ それなり ” が何なのかを、
私は聞けなかった。
•
教室の窓から入る風が、少し冷たくなってきた。
夕暮れに沈む光の中で、
彼の声と表情が、どこかやわらかく滲んで見えた。
このまま、何も変わらずにいられたらいい。
でも、きっと私は――
このままでいたら、後悔する。
そのことに、少しずつ気づき始めていた。
