君のとなりで。









   ──それは、何でもない“偶然”のはずだった。





















 4月の終わり、曇り空の午後。










 新学期に少しずつ慣れてきたころ、





 クラスでは早くも最初の "席替え" が行われた。








   「 じゃあ、くじで決めるよー 」





 なんて、先生の軽い声とともに、一人ずつ名前が呼ばれていく。











 私の心は、特別な期待も特になく、




 ただ「変な位置になりませんように」







 ......なんて、ぼんやり祈っていた。















 でも、その時。




 私の隣の席に座ったのは、 ” 篠原くん ” だった。








 クラスの中心、ってわけじゃないけど


 何となく話しかけやすい雰囲気を持っていて、


 誰にでも自然に笑える人。






 私はほとんど話したことがなかったけど、





 彼の名前は、何となくずっと頭に残っていた。























   「 よろしく。.........あ、前の席、誰だっけ? 」
















 ─── その一言が、最初だった。





 私に向けられた、彼の声。














 




 ほんの小さなきっかけだったのに、











 なぜか、その日一日ずっと、頭から離れなかった。










 返した「よろしくね」も、





 少し声が上ずってしまって、



 自分でも気づいて恥ずかしかった。









































 授業中、ふと横を向けば彼がいて。













 黒板の文字が見えにくい時にそっとノートを覗かれたり、






 先生の冗談に、小さく笑っていたり。


























 そんな、何気ない一つ一つの仕草を、








 私は自分でも知らないうちに、




 目で追うようになっていった。




















































   「 なにそれ、字ちっちゃすぎ笑 」






 プリントの余白に書いた自分のメモを、



 篠原くんが覗き込んで笑う。







 その時の声がやけに近くて、

 耳の奥がじんと熱くなる。













   「 み、見ないでよ、 」









 そう言いながら、私はノートをバタッ、と閉じた。



 でも、心の奥では――


















 こんな風に話せる距離が、







 ちょっとだけ、
















 嬉しかった。

























































 たった数文字の会話。






 たった数センチの距離。
















 だけど、そのすべてが、私の中で、少しずつ「特別」になっていく。






























































 このときの私はまだ、




 この席替えが、たった一度きりの “恋のチャンス” になるなんて、思ってもいなかった。