「…私」
カバンの持ち手を、力強く握る。
乾いた唇に力を込めて、息を吸った時ーー
「引き止めて、悪かった。…じゃあ、また明日」
中島くんの言葉に、タイミングを逃してしまった。
中島くんは家の中に戻っていく。
それを見送って、小さく息を吐く。
一日一日が過ぎるごとに、自分にとって一分一秒がものすごく貴重なものになっていく。
こうやって悩んでクヨクヨしている時間なんて、もったいないくらい。
中島くんに、ちゃんと話そう。
もし、最期までの時間を病院で過ごしていたら、中島くんにも出逢うことはできなかった。
自分が、それとは違う選択をしたから、中島くんと出逢えた。
だから、後悔なんてしてない。
時間が経つごとに怖さは増えていくけど、今は怖さも不安も忘れて、ただ一緒に笑いたいーーそんな思いの方が強い気がする。
だから、土曜日は思いっきり楽しんで、ちゃんと中島くんに伝えよう。

