「蛍ちゃーん、気をつけてねー!」
分かれ道の少し先で峯岸くんが大きく手を振っている。
私はなんだか照れくささを感じながらも、胸元で小さく手を振りかえした。
✳︎
家に帰ると、玄関には鍵がかかっていた。
「……お母さん、買い物か」
そう呟いて、私は鍵を開けて、ゆっくりと靴を脱ぐ。
さっきまで感じなかった疲労感がどっと襲ってくる。
部屋に向かおうとした時ーーー。
なんだか心臓のあたりにざわめきが走って、全身から血の気が引いてくるのを感じた。
じわじわと体温が奪われて、冷や汗が出てくる。
「……っ…」
そのとき、鋭い、心臓が絞られるような痛みが走った。
今まで、動悸が強くなって少し息苦しさを感じる嫌いだったのに……
今は少し息を吸うだけで、今までにない痛みが走る。
私は持っていたカバンを床に放って、絶え絶えの意識の中で、カバンをあさる。

