蛍火のような恋だった


俺は、蛍のお母さんの言葉に小さくうなずいた。

胸の奥がざわついて、言葉にするにはまだ重すぎる感情があった。

「…でも、忘れたくはないんです。蛍のことは、ずっと」
わずかに震えていた。

蛍のお母さんは優しく微笑み、言葉を続ける。

「もちろんよ。忘れなくていいの。思い出して、泣いてもいいの。泣くことも、思い出すことも、全部大事な時間だから」

「…はい」

「今日凪くんを呼んだのは、これを渡したかったからなの」

手渡されたのは、小さな紙袋。

「あの子の病室を整理したら出てきたものなの。どうしても凪くんに渡したかったから、今日会えてよかったわ。中身は、家でゆっくり見てね」

蛍のお母さんが、穏やかに笑う。

「私も夫も、凪くんにはとても感謝してるわ。蛍を最期まで支えてくれて、ありがとう」

「…俺は、何もできませんでした。ただ、無力なだけで蛍には何も…」

「そんなことは、絶対にない。蛍にとって、凪くんがそばにいてくれること以上に、嬉しいことはなかったと思うから。外も暗くなってきちゃったし、家まで送るわ」

結局、帰りも蛍のお母さんの車で、家まで送ってもらった。

「凪くん、いつでも遊びに来てね」

「はい…」

遠くなる車を見送って、俺は家に入った。