蛍火のような恋だった


「…ね、海ってどんな感じ?海水って本当にしょっぱいの?」

「…そりゃあ、まあ。舐めたことくらい、あるだろ?」

凪くんが不思議そうに首を傾ける。

「あら、知らないから聞いてるんじゃない」

凪くんは、ああ、そうか…と何かを思い出したように遠くを見つめる。

それから少しして、凪くんが口を開いた。

「…海って、すごく気持ちのいい場所なんだ。波音が心地よくて、潮風の匂いがして…夕日が沈むときは、昼間とは全然違う景色になるんだ。海水は塩っ辛くて、ちょっと舐めるだけでも、舌がピリピリする」

肩をすくめて笑う彼を横目に、私は目を閉じた。
ザブン、と押し寄せる波音。
鼻先をかすめる見知らぬ匂い。
足裏に残る砂感触。

想像すればするほど、行ってみたくなる。

私はスケッチブックのまっさらなページを、そらに掲げた。

そこに、想像の海を描いていく。

空とは違う、まだ見たことのない青色がずっと先に広がっているのだろう。