君ともう一度、 恋を始めるために

部屋に入って来たのは50代くらいの女性。
色白のとっても奇麗なその人を見た瞬間、柚葉はその場に立ち上がっていた。

「どうぞそのままで」

穏やかな声で着席をすすめられ、柚葉は再び席に着いた。

「初めまして、藤崎里奈と申します」

どう見ても自分より年長者である女性を前に、柚葉は自分から名乗るべきだと思った。

「神崎涼の母です」

―――やっぱり

女性を見た瞬間、柚葉はその人が涼のお母様だとわかっていた。
どことなく顔立ちが似ている上に、何よりもグレーがかった色の瞳が涼と同じだったのだ。

お互いの名前は名乗ったものの、それからは誰も声を発することなく時間が流れた。
その時間が数秒だったのか数分だったのかはわからないが、柚葉にはとても長い時間に感じられた。

「あなた、お名前は?」

しばらくして、お母様が莉奈を見ながら尋ねる。

「ふじさきりなです」

莉奈は一瞬柚葉の方を見てから、小さな声で答えた。

「そう、莉奈ちゃん。かわいいお名前ね」

感慨深そうに見つめる眼差しはとても優しく、柚葉は少しホッとした気持ちになった。