君ともう一度、 恋を始めるために

答えに詰まり無言のままでいる柚葉に、涼はそれ以上聞いてくることはしなかった。
ただ会話のない静かな時間がしばらく流れた。

「俺、そろそろ帰るわ。最終で帰らないと明日の朝から仕事なんだ」
「そう。忙しいのに、一緒にいてくれてありがとう」

涼が一緒にいてくれなければ、どれだけ不安だったことだろう。
誰かが側にいてくれることが心強かったし、それが涼であったことがうれしかった。

「また、連絡するから」
「ええ」

幸い東京と九州という距離のため頻繁に会うことはないが、今更逃げることはできない。
柚葉自身も気持ちの整理をして、涼と向き合わなければいけない。

「今度会うときには、きちんと話をしよう」
「はい」
「じゃあ、また」

まだ眠ったままの莉奈の寝顔を覗き込んでから、涼は病室を出て行った。
その後ろ姿に愛おしさを感じながら、柚葉はギュッと唇をかみしめた。