「今夜はもう遅いから、ホテルに部屋を取ろうか?」
「いえ、帰ります」

柚葉の住む門司までは電車で約1時間。いくら酔いが覚めたとは言え一人で帰るには距離があるが、これ以上涼と一緒にいることの方が不安だった。

「どうしてもと言うのなら、俺が車で送って行くよ」
「それは、困ります」

さすがに住んでいる場所まで教える訳にはいかない。

「酔っ払っている柚葉を1人になんてできるわけがないだろう」

やっと再会し気持ちが通じたと思ったのに、近づこうとすれば後ずさりする柚葉。
涼はそんな柚葉にもどかしさを感じているようだった。

「なんて言おうと、一人で帰すつもりはないよ」

絶対に譲らないぞと表情を引き締めた涼に、柚葉は諦めたようにうつむいた。

「わかりました。じゃあ、シングルの1番安い部屋をお願いします」
「ああ、わかった」

ここ福岡には神崎グループのホテルがいくつもあり、どこも星付きの高級なホテルだ。
涼のことだから安いビジネスホテルなんて選ばないだろうなと思いながら、それでもせめて自分で支払いができるところをと柚葉はお願いした。