両サイドに扉が並ぶ長い絨毯敷きの廊下。
少し窮屈さを感じる狭い空間はおそらくホテルの客室へと向かうものだろう。
自分では足元さえおぼつかない状態の柚葉には抵抗する術もなく、恭介に体を抱えられながらただ前と進んでいた。
思考力の落ちた頭では、今この状態を打開する策も思い浮かばずどうすることもできない。
これも自業自得なのかもしれないと柚葉が後悔したその時、急に恭介の足が止まった。

「待てよ」

背後から聞こえたのは怒りを含んだ男性の声。
そして、柚葉はこの声に聞き覚えがあった。

―――涼?

「お前、何のつもりだ」

近づいてきた足音が止まり、頭の少し上の方から投げかけられた苦しげな言葉。
次の瞬間、肩を掴まれた恭介の体が大きく揺さぶられ、反動で支えを失った柚葉はその場に座り込んだ。

「柚葉ちゃん」

とっさに恭介が柚葉に手を差し伸べようとした。しかし、

「やめろ、柚葉に触るな」

普段の涼からは想像もつかない鋭い声に止められた。