君ともう一度、 恋を始めるために

「もう充分逃げたんじゃないの？」
「それは・・・」

非難めいた感情を含んだ親友の言葉に、柚葉は唇を噛む。

―――私だって、逃げたくて逃げたんじゃない。

言葉にしてしまえば気持ちが溢れそうで言葉にできなかった。
4年前、突然現れた速水玲奈に涼の実家である神崎家との間で交わした契約書を見せられた。
そこには彼女と涼との結婚が両家の総意であり、二人の結婚を前提に神崎グループは玲奈の実家である速水コンツェルンと業務提携を行うというような内容が書いてあった。
その上で、「未来ある涼のためにあなたは何ができるのか」と聞かれ、柚葉は何も答えられなかった。

「あの時は、他に方法がなかった」

苦しい思いを言葉にし小さく肩を落とす柚葉に、優香の表情が暗くなる。

「どちらにしても、莉奈ちゃんの幸せを一番に考えないとね」
「わかっているわ。だから」

思わず身を乗り出しそうになって、柚葉はグッと口をつぐんだ。