君ともう一度、 恋を始めるために

「お船があるよ」

初めて海に浮かぶフェリーを見た莉奈は上機嫌で柚葉の手を引く。

「今度乗りましょうね」
「はーい」

少しだけうつむいてしまった莉奈だが、自然豊かなこの地での暮らしはこれから先数え切れない位の楽しみを与えてくれるはずだ。
だから帰ってきた事は間違ってはいないのだと、柚葉は自分に言い聞かせた。

「ママ、暑い。喉が渇いた」
「そうね、何か飲みましょう」

9月になったばかりとはいえ空調の効いた列車での移動だったためあまり気にしていなかったが、今日の莉奈は普段より水分が取れていなかったのかもしれない。
柚葉はカバンに入れていた水筒のお茶が少なくなっていたことに気づき、近くの自動販売機はないかとあたりを見回した。
その時、柚葉は固まった。

―――嘘。

柚葉のいる場所から十数メートル離れたバス停に立つ姿に、柚葉は目を奪われた。
駅で見かけたときには見間違いかと思ったが、バス停の案内表示を見つめている横顔は、間違いなく4年前に別れたあの人だった。