君ともう一度、 恋を始めるために

柚葉の父は元々公務員で、昨年末に市役所を退職したばかり。
今は下関での一人暮らしをしている。
もちろん祖母に比べれば若いが、今まで事務仕事ばかりしてきていてお世辞にも客商売向きとは言えない寡黙な人だ。

「本当に、父がそう言ったの?」

疑うわけではないが、祖母と父の仲はごくごく普通の義母と娘婿の関係に見えていた。
まさか父がそんなことを言うなんて想像ができない。

「ああ。お母さんが亡くなってから、時々こちらにも顔を出しておられたらしい。高齢になっていくおばあさんを一人娘だったお母さんの替わりに自分が看なくてはと思っていたんだとおっしゃっていた」
「そんな・・・全然知らなかった」

父は父なりに祖母の暮らしや旅館の行く末に責任を感じていたのだろうなと感慨深い思いに浸っていると、柚葉はふとあることに気が付いた。

「ねえ涼、もしかして父に会ったの?」

倒れて意識を失っている間に何が起きたのかは柚葉にはわからない。
娘の柚葉が倒れたのだから父が駆けつけるのも当然のことだし、柚葉に付き添っていた涼と会っていても不思議ではない。
ただ、父は毎年柚葉宛に送られてくる手紙の差出人である「神崎涼」の名前を知っているし、その人物が莉奈の父親だと薄々気が付いてもいた。

「会ったよ。これまでのことをお詫びもして、これからは柚葉と莉奈を守っていきますと約束もした」
「・・・大丈夫だった?」

昔気質の父のことだから厳しいことを言ったのかもしれないと、柚葉は不安になった。