君ともう一度、 恋を始めるために

薄れていく意識の中で、柚葉は母のことを思い出していた。
明るくて優しくて、いつも柚葉の見方だった母。
その母が突然の心臓発作で亡くなったのは、柚葉が大学生の頃だった。
それまでは病気などしたこともなく健康そのものだった母が倒れ、意識が戻らぬまま翌日には息を引き取ったのだ。
現実を受け入れる暇もないほど、本当にあっけない最後だった。
そのことを機に、柚葉の生き方も少し変わったのかもしれない。
それまでは生や死について深く考えたこともなかったが、母の死をきっかけに人はいつか亡くなるものだと実感した。
だからこそ、今を精一杯悔いのないように生きなくてはいけないと思うようになった。
もしかしたらそのことが、涼の負担になりたくないと自ら別れを告げ、1人で莉奈を産み育てる決心をした理由かもしれない。