君ともう一度、 恋を始めるために

「どちらにせよ、彼女も経営者であるおばあさまもこの旅館の売却は望んでいません。ましてやこのタイミングでする話でもないと思います。どうぞ今日はこのままお引き取り下さい」
「しかし・・・」

きっぱりと告げる涼に男性たちも戸惑っている様子だが、涼に言葉をきっかけにそれまで険しい顔で柚葉を睨んでいた店主たちの視線は同情的なものに変わった。

「そうよね、いきなりやってくるなんて非常識だわ」
「そうよ、まだ火事の片付けの最中なのに」

涼の言葉で誤解が解けたのか、次々に柚葉を擁護し始める。
さっきまでの勢いは何だったのかと思いながらも、ここに集まった店主たちもまた風評被害の被害者なのだ。
これらすべてが誰かの嫌がらせなのだとしたら、許せない。

「わかりました、今日のところは失礼します」

速水不動産を名乗る二人連れは、周囲の圧欲に押されたのか逃げるように旅館を出て行った。