４年前、柚葉は逃げるように姿を消した。
それは将来を約束され、海外勤務の決まった涼の負担になりたくなかったからだったし、未練があるからこそ黙っていなくなった。
当然涼は怒っているはずで、４年経った今でも想ってくれているなんてありえない。

「ああ見えて神崎グループの社長だからな、本気になれば京都中を探すかもしれないぞ」
「そんな馬鹿な」

そう言いながらも、涼ならするかもしれないと思えた。
未だに会いたいと思ってくれているのかどうかは別として、普段は優しくて温厚な涼には、強い一面がある。
自分が欲しい物は絶対にあきらめないし、誰にも譲らない人だ。

―――逃げなくては

柚葉の中に浮かんだ言葉。
もし涼に莉奈のことが知れれば、事態は複雑になってしまう。
莉奈や柚葉だけではなく、涼の人生まで変わってしまうかもしれない。
それだけは絶対に阻止しなくてはと、柚葉は心に決めていた。