「やっぱりここを引き払うつもりなの？」
「だから火事を？」
「え、違います」

速水不動産を名乗る男性とのやり取りを近く見ていた近所の人々は、訝し気な視線を柚葉に向けた。
「違います」「誤解です」といくら言っても誰も信じてくれそうにない。
それどころか、柚葉を見る眼差しは鋭いものに変わっていった。

「女将さんは孫娘が旅館を継いでくれるって喜んでいたのに、見損なったよ」
「かわいい顔をして何を考えているかわかったものじゃないね」

つい先ほどまで仲間だと言ってくれていた人たちが、柚葉に敵意を向ける。
心の中に刺さってくる言葉のひとつひとつに、柚葉は傷ついていった。

―――お願いやめて

耳を塞ぎたい衝動にかられながら、柚葉がギュッと唇をかんだ。